ご監修
熊本大学病院 小児科 特任講師 小篠 史郎 先生
DMDの病因遺伝子
進行性で致死性の筋萎縮症であるDMDは、ジストロフィン遺伝子の変異が原因となって生じます。ジストロフィン遺伝子に生じる変異のパターンはさまざまですが、国内のデータベースに基づく研究では、DMD症例の60%にエクソン欠失が認められています1)。
1)Takeshima Y, et al. J Hum Genet. 2010;55:379-88.
DMD・BMDの違いとreading frame theory
DMDと同じくジストロフィン遺伝子の変異が原因となって生じる筋ジストロフィーでも、軽度で臨床上の進行が緩やかなものはベッカー型筋ジストロフィー(BMD)として区別されています2)。
このDMDとBMDの臨床的な違いを分子的に説明すると考えられているのが、reading frame theoryです3)。これはジストロフィン遺伝子の変異によってアミノ酸読み取り枠にずれが生じるかどうかが表現型に影響するという考え方です。
たとえば、118塩基からなるエクソン52を欠失した場合には、エクソン53以降のアミノ酸読み取り枠がずれることで異常なmRNA前駆体が生成されます。この異常なmRNA前駆体は分解除去されるため、ジストロフィン蛋白が合成されず、重症型であるDMD表現型を示します。(上段スライド 上側)
一方、合計330塩基からなるエクソン52および53を欠失した場合には、エクソン54以降のアミノ酸読み取り枠が保たれます。(上段スライド 下側)そのため、エクソン52および53の欠失分だけ短いものの両端の構造を維持したジストロフィン蛋白が合成され、軽症型であるBMD表現型を示します。(下段スライド)
2)Matsuo M, et al. IUBMB Life, 2002;53:147-152.
3)Monaco AP, et al. Genomics. 1988;2(1):90-5.
ビルテプソ®によるエクソン53スキッピング
このreading frame theoryに基づく治療法が、エクソン・スキッピング治療です。2020年5月に、国内初のエクソン・スキッピング治療剤として、ビルテプソ®が発売されました。
ビルテプソ®は、ジストロフィンのエクソン53を標的とするアンチセンス核酸です。ビルテプソ®はジストロフィンmRNA前駆体のエクソン53に結合して、エクソン53をスキッピングすることでアミノ酸読み取り枠を回復させ、短いが両端の構造を保持したジストロフィン蛋白を発現させることによって、DMDに対する作用を示すと考えられています。
DMD治療剤ビルテプソ®
ビルテプソ®は国内第Ⅰ/Ⅱ相試験及び海外第Ⅱ相試験の結果に基づいて、「エクソン53スキッピングにより治療可能なジストロフィン遺伝子の欠失が確認されているDMD」を効能又は効果として承認されました。
なお、ビルテプソ®は条件付き早期承認品目であり、現在、検証的臨床試験(グローバルP3試験)において有効性と安全性の確認が進められています。また、ビルテプソ®は医薬品リスク管理計画(RMP)対象製品となっています。
このように、ビルテプソ®による治療の対象になるのは、遺伝子検査によって「エクソン53スキッピングにより治療可能なジストロフィン遺伝子の欠失」が確認されている患者に限られるものの、従来の対症療法とは異なり、疾患の原因遺伝子のmRNA前駆体に働きかけるような治療法が登場したことの意義は大きいと考えられます。
治療機会を遅らせないよう、DMD患者の早期発見はこれまで以上に重要となることでしょう。そこで、仮想症例をとおしてDMD患者の発見のポイントをご紹介します。
典型的なDMD症例①
こちらに、DMDの仮想症例を示します。
DMDは、0歳または歩ける1~5歳の男児で診断されることが多く、「走るのが遅い」という訴えや「転びやすい」といった歩行の異常が見られる点、腓腹部の肥大が見られる点、また、血清CKが1万を超える高値であるにもかかわらず、全身状態が良好で本人が痛がる様子もなくニコニコしている点が典型的です。
典型的なDMD症例②
筋症状はDMDを疑う重要なポイントです。しかし、DMDの診断の契機となるのは、筋症状だけではありません。こちらに、もうひとつの典型的なDMD仮想症例を示します。
骨格筋にはAST、ALTが含まれているため、DMDでは筋崩壊によってAST、ALT値が高値となります。このため、肝疾患疑いととらえられてしまうことがあります。そのため、AST、ALTが高値の場合は、鑑別のために血清CKの測定が勧められます。
DMDが疑われる合併症
また、DMDでは知的発達症や精神発達症、尿路障害を合併することがあります4,5)。
これらを持つ患者ではDMDの可能性を考慮して、ぜひ一度血清CKを測定ください。
4)Ricotti V, et al. Dev Med Child Neurol. 2016;58(1): 77-84.
5)MacLeod M, et al. Arch Dis Child. 2003;88(4):347-9.
まとめ
DMDの一部はエクソン・スキッピング治療が可能となりました。治療機会を遅らせないために、DMD患者の早期発見の重要性は増していると考えられます。
血清CKが1万以上あるにもかかわらず、ニコニコして全身状態良好な0歳または歩ける1〜5歳の男児が典型的なDMD像です。
筋症状のみならず、AST・ALT高値、知的発達症・神経発達症、
尿路障害もDMDが疑われるポイントになります。
ぜひ一度、血清CKを測定ください。
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