骨髄細胞密度の測定

報告・監修/順天堂大学医学部 臨床検査医学

教授 田部 陽子

※先生方のご所属・ご役職は、ご執筆当時のものを
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現在のご所属・ご役職と異なることがございますが、
ご了承ください。

骨髄系腫瘍では、確定診断や治療選択、治療効果を判断するうえで、骨髄検査の実施や骨髄細胞密度の測定が重要です。本コンテンツでは、骨髄検査の実施方法や評価項目に関するご紹介と、骨髄異形成症候群(MDS)の3症例について、標本画像を用いながら症例提示をいたします。

骨髄検査の評価項目

骨髄検査は造血器腫瘍の確定診断や治療効果を判断する上で必須の検査である。
検査法には、骨髄穿刺(吸引)と骨髄生検の2種類がある。
骨髄穿刺の部位は、安全性の観点から腸骨(後腸骨稜)が第一選択だが、細胞数が少なく診断に不適当な場合は胸骨(第2〜第3肋間)となる。骨髄生検は腸骨(後腸骨稜)で行う。

1
細胞数算定
骨髄穿刺液(0.3〜0.5mL)を用いて有核細胞数や骨髄巨核球数を算定する。チュルク液で50倍に希釈後、有核細胞数算定にはビュルケル・チュルク計算盤、巨核球数算定にはフックス・ローゼンタール計算盤を用いる。
血球計算盤
ビュルケル・チュルク フックス・ローゼンタール
ビュルケル・チュルク フックス・ローゼンタール
(参考) 正常な骨髄所見
(参考) 正常な骨髄所見 表
(参考) 正常な骨髄所見 表
2
骨髄像の観察
骨髄穿刺液 (0.3〜0.5mL) により薄層塗抹標本 (ウェッジ標本) および圧挫伸展標本 (クラッシュ標本) を作製し、主に以下①~③について調べる。
薄層塗抹標本 図

薄層塗抹標本

圧挫伸展標本 図

圧挫伸展標本

薄層塗抹標本は細胞形態 (異形成像) の評価、圧挫伸展標本は細胞密度や巨核球の評価に適している。基本染色法であるMay-Grüenwald-Giemsa染色に加え、ペルオキシダーゼ染色、非特異的エステラーゼ染色、鉄染色を行う。

骨髄細胞分画
有核細胞構成比

M/E比 (顆粒球系細胞/赤芽球系細胞比)

造血三系統の異形成像の有無
3
染色体検査、
細胞表面マーカー
染色体検査、細胞表面マーカー検査を行う場合には、骨髄像・細胞数算定用の骨髄血を吸引採取(0.3〜0.5mL) した後、2回目の吸引により必要量(3〜5mL程度)を採取する。
染色体検査

骨髄異形成症候群(MDS)はさまざまな染色体異常を伴い、病型分類(5q-症候群)や予後分類(5q-や20q-:予後良好、複雑核型や7番染色体異常:予後不良)に染色体検査が必須である。G分染法による核型解析の他、染色体異常症例の治療効果の評価にはFISH法が用いられる。

フローサイトメトリーによる
細胞表面マーカー検査

白血病など他の疾患との鑑別を目的とする。

4
病理組織検査
骨髄の細胞密度を正確に把握するために、病理組織検査が不可欠である。
骨髄生検では、大型の生検針(ジャムシディ針)を用いて骨片と骨髄組織を採取する。凝血した骨髄穿刺液を用いて作成したクロット標本でも骨髄細胞密度の評価が可能である。HE(ヘマトキシリン ・ エオジン)染色を行う。
骨髄細胞密度分類

骨髄細胞密度は、造血細胞髄が標本を占める割合で判定する。
   骨髄細胞密度 (%) = [ 造血細胞髄 /(造血細胞髄 + 脂肪組織)] ×100
低形成、正形成、過形成に分類される。

骨髄細胞密度分類 表
骨髄細胞密度分類 表
骨髄細胞密度の評価

骨髄細胞密度の評価には、骨髄穿刺と骨髄生検および骨髄MRI (脊椎骨) を実施することが望ましい。骨髄MRIは、細胞密度を水強調画像 (造血細胞髄を検出) と脂肪強調画像 (脂肪組織を検出) で推定できるため判定補助法として有用である。
骨髄細胞密度を評価する際、算定有核細胞数が基準値~増加の場合は、塗抹標本上での骨髄正形成や過形成の判断は容易である。しかし、有核細胞数が減少している場合には、静脈洞血による希釈の可能性を考慮し、塗抹標本のみでの低形成の判断は慎重でなくてはならない。また、骨髄穿刺で検体が採取出来ない場合 (dry tap) も、原因として骨髄線維化以外に手技上の問題が存在する。そこで、骨髄細胞密度の評価には、骨髄穿刺液を用いた骨髄像よりも骨髄生検所見が有用である。
特に高齢者では、腸骨の骨髄細胞密度が低下するため、骨髄低形成の判定には複数の部位からの骨髄穿刺や骨髄生検が必要である。

疾患 (典型例)と
骨髄細胞密度
疾患 (典型例) と骨髄細胞密度 表
疾患 (典型例) と骨髄細胞密度 表

症例提示

case1 MDS-RS(WHO 2017) 71歳女性・過形成

末梢血所見では、単血球減少(貧血)があり、骨髄検査では、赤芽球系過形成と環状鉄芽球(ring sideroblast)を全赤芽球の約20%に観察した。また、核の成熟遅延(核-細胞質成熟乖離)を示す赤芽球がしばしば観察された。骨髄球系細胞には、好中球の脱顆粒や大型好中球を認めたが、頻度は10%未満であった。ビタミンB12や葉酸値の低下はなかった。
骨髄細胞密度は、骨髄塗抹標本/圧挫伸展標本では軽度過形成、骨髄生検標本/クロット標本では過形成であった。

case1 表
case1 表
case2 MDS-EB-1(WHO 2017)   62歳男性・高度過形成

末梢血所見では、芽球の出現(2%)と2血球減少(貧血、血小板減少)があり、骨髄検査では、芽球比率4%、3系統異形成(赤芽球系、骨髄球系、巨核球系)が認められた。骨髄球系細胞には、好中球の脱顆粒や偽ペルゲル核異常を認め、赤芽球系細胞には、核の成熟遅延(核-細胞質成熟乖離)や多核、核辺縁不整を示す赤芽球が観察された。また、巨核球系細胞では、微小巨核球(micromegakaryocyte) のほか、円形分離多核球を高頻度で認めた。
骨髄細胞密度は、骨髄塗抹標本/圧挫伸展標本、骨髄クロット標本ともに高度過形成であった。

case2 表
case2 表
case3 MDS-EB-2(WHO 2017)   77歳男性・低形成

末梢血所見では、芽球の出現(1%)と3血球減少(白血球減少、貧血、血小板減少)があり、骨髄検査では、芽球比率12%、3系統異形成 (赤芽球系、骨髄球系、巨核球系) が認められた。主な形態異常所見としては、骨髄球系細胞には脱顆粒好中球、赤芽球系細胞には環状鉄芽球(ring sideroblast:全赤芽球の約20%)、巨核球系細胞には微小巨核球(micromegakaryocyte)が高頻度で認められた。
骨髄細胞密度は、骨髄塗抹標本/圧挫伸展標本、骨髄生検標本/クロット標本のいずれにおいても脂肪組織が目立ち、低形成であった。

case3 表
case3 表

標本画像 : 監修者提供

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