体外式超音波検査によるSOS/VOD評価法~腹水評価の注意点~
- 解説・監修:
- 北海道大学病院 経営戦略部 准教授/ 病院長補佐 西田 睦 先生
- 北海道大学病院 検査・輸血部/ 超音波センター 岩井 孝仁 先生
本コンテンツでは、監修者らが考案したHokUS-10/6で測定される項目の1つである、腹水評価の走査手技や注意点について解説します。
※ごく少量の腹水の見落としや、腹水と間違えやすい胸水、中等量以上の腹水の実例や判定の際の注意点を解説します。
HokUS-10の評価方法、HokUS-6の診断フローチャート
HokUS-10の評価方法、HokUS-6の診断フローチャートは以下の通りです。
HokUS-10では、腹水量が少量で1点、中等量以上で2点加算されます。
HokUS-6では、腹水が確認されなければ、SOS/VODとは診断されません。
【参考】体外式超音波検査によるSOS/VOD評価法~HokUS-10の10項目の走査手技~
HokUS-10の評価方法
計測項目 | 計測項目 | 点数 |
---|---|---|
肝左葉前後径(大動脈前面) | ≧70mm | 1 |
肝右葉前後径(右腎前面) | ≧110mm | 1 |
胆嚢(GB)壁厚 | ≧6mm | 1 |
門脈本幹(PV)径 | ≧12mm | 1 |
傍臍静脈(PUV)径 | ≧2mm | 2 |
腹水量 | 少量 | 1 |
中等量以上 | 2 | |
PV平均血流速度 (time-averaged flow velocity:TAV) |
<10cm/s | 1 |
PV血流方向 | 遠肝性またはうっ滞 | 1 |
PUV血流信号 | あり (遠肝性またはうっ滞) |
2 |
(固有)肝動脈末梢血管抵抗値(RI) | ≧0.75 | 1 |
※合計5点以上をSOS/VOD 疑いとする。
HokUS-10/6における腹水評価の基準
HokUS-10/6における腹水評価は以下の基準に則り行われる
存在部位 |
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判定基準 |
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HokUS-6の診断フローチャート
HokUS-10/6における腹水評価の基準
HokUS-10/6における腹水評価は以下の基準に則り行われる
存在部位 |
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判定基準 |
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少量の腹水と判断された例と検出の注意点
少量の腹水は、最大短径1cm未満の腹水が、①肝臓周囲 ②脾臓周囲 ③下腹部のいずれかに認められる場合に『少量あり』と判断します。
ごく少量の腹水は見落とされる可能性もあるため、ここでは、見落とされやすいごく少量の腹水の実例や判定の際の注意点を解説いたします。
ごく少量の腹水同定時には、周辺の腹水ではない低エコー像を鑑別するために、1部位につき2方向からのアプローチで行ってください。
浅い部位の場合、高周波プローブの使用が推奨されます。
肝臓~胆嚢周囲で腹水を検出する際の注意点
少量の腹水例
胆嚢周囲 例1
方向①:右肋弓下走査
方向②:方向①の直交走査
右肋弓下走査では肝裏面胆嚢体部左側十二指腸との間にごく少量の腹水貯留が検出されます。
直交走査でも同部位にごく少量の腹水貯留が検出されます。
胆嚢周囲 例2
方向①:右肋弓下横走査
方向②:方向①の直交走査
例2の高周波プローブによる観察
肝裏面胆嚢周囲に少量の腹水が検出されます。
直交走査でも同部位に少量の腹水貯留が検出されます。
高周波プローブによる観察で明瞭化します。
脾臓周囲で腹水を検出する際の注意点
少量の腹水例
方向①:左側腹部横走査
方向②:方向①の直交走査
左側腹部横走査では脾臓外側に少量の腹水貯留が検出されます。
直交走査でも同部位に少量の腹水貯留が検出されます。
腹水と間違えやすい例
左胸水
左肋間走査にて脾臓の頭側に液貯留を認めます。横隔膜より頭側に認めるため左胸水の所見です。
腹水の場合は横隔膜より足側に検出されるため、間違えないように注意しましょう。
下腹部で腹水を測定する際の注意点
少量の腹水例
骨盤腔内
汎用コンベックス型プローブ
高周波コンベックス型プローブ
高周波リニア型プローブ
傍結腸溝
方向①:右下腹部横走査
方向②:右下腹部縦走査
右下腹部傍結腸溝横走査では、盲腸外側に少量の腹水貯留が検出されます。
縦走査では盲腸の盲端足側に少量の腹水貯留が検出されます。
回盲部
方向①:右下腹部斜め走査
方向②:方向①の直交走査
右下腹部斜め走査では、回腸末端頭側に少量の腹水貯留が検出されます。
直交走査では回腸周囲と盲腸の盲端周囲にごく少量の腹水貯留が検出されます。
(回腸末端の全周性びまん性の壁肥厚を認め、一部で層構造消失し内腔面に陥凹を伴っています。GVHD腸炎の所見です。)
中等量以上の腹水と判断された1例
腹水が①肝臓周囲②脾臓周囲③下腹部の全てに認められる場合、かつ最大短径1cm以上の腹水が①-③の2部位以上に認められる場合に『中等量以上あり』と判断します。
ここでは、中等量以上の腹水と判断された1例を紹介し、判定の際の注意点を解説いたします。
中等量以上の腹水例
肝臓周囲(モリソン窩)
肝下面に腹水貯留を認めます。最大短径は1cmです。
脾臓周囲
脾臓周囲に腹水貯留を認めます。最大短径は明らかに1cmを超えています。
下腹部(骨盤腔内)
下腹部に腹水貯留を認めます。最大短径は明らかに1cmを超えています。
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