鉄欠乏状態が持続すると鉄欠乏性貧血を発症します。鉄欠乏性貧血は貧血の中で最も頻度が高い貧血です。また、鉄欠乏は貧血以外にもさまざまな障害を起こす可能性があるため、鉄欠乏の予防は重要です。鉄の吸収や利用は厳密に制御されているため、適切に鉄欠乏の予防や治療を行うためには、鉄代謝の仕組みを理解する必要があります。本コンテンツでは、生体内における鉄代謝と鉄剤の体内動態、および鉄摂取の重要性について解説します。
1.生体内における鉄代謝と鉄剤の体内動態
2.鉄欠乏になるリスクのある方
月経のある成人女性
通常、尿、便、汗などで1日1 mgの鉄が失われますが、月経のある女性では、毎月の生理出血でさらに1日平均0.75 mgの鉄が余分に失われます1)。日常、食事が規則的にとられている場合には、1日約1~2 mg(経口摂取量として約10 mg分)の鉄を吸収することができますが、ダイエットを続けている場合には食事中の鉄だけでは不足となります。また、過多月経や子宮筋腫などの婦人科疾患があると、さらに鉄欠乏のリスクが高まります1)。
妊婦
生体内の鉄量は3,000~4,500 mgであり、その60~70%がヘモグロビン鉄、30~40%が貯蔵鉄とされています。妊娠期間(40週)において、胎児胎盤に320 mg、母体ヘモグロビン量に300 mg、出産等により排泄される鉄280 mgを合わせ、約900 mgの余分な鉄が必要となります。そのため、妊娠前よりも1日2~4 mgの鉄分(経口摂取量として20~40 mg分)を多く吸収することが必要となりますが、平均的な妊娠年齢である20歳~30歳代の日本人女性の1日平均鉄摂取量は約7 mgと低く、鉄欠乏に陥りやすくなっています1)。
3.鉄摂取の重要性と摂取不足のリスク
成長期の若年者、閉経前や妊娠中の女性では鉄の需要が亢進するため、より多くの鉄摂取が必要であり、鉄欠乏の状態が継続すると鉄欠乏性貧血の発症リスクが高くなります。さらに、妊婦では妊娠期の貧血は早産、低体重児の出産リスクと関連するほか2,3)、産褥期においては産後うつ病と関連することが報告されています4)。
一方、鉄欠乏性貧血の治療を行うことで、QOLが改善し、疲労感が軽減されたり、不安やうつを含む精神障害のリスクが改善されたりすることが示唆されています5,6)。
鉄欠乏の改善には、食事からの鉄摂取量の増加や鉄補助食品・鉄のサプリメントの摂取が有用とされていますが、鉄欠乏性貧血に進展した場合には鉄剤の投与が必要となります。治療を行ううえでは、貧血の原因を精査することが重要です。特に、貧血であっても慢性的な炎症状態を来す疾患に罹患している場合は、まず鉄欠乏性貧血との鑑別が必要となります。また、貯蔵鉄量の指標としては血清フェリチン値が有用となります7)。
まとめ
適切に鉄欠乏の予防や治療を行うためには、鉄代謝の仕組みを理解することが重要です。
月経のある成人女性や妊婦は、生理出血、婦人科疾患、妊娠による鉄需要の増加、
出産に伴う出血により、鉄欠乏になるリスクがあります。妊婦では、鉄欠乏の状態が継続すると、鉄欠乏性貧血の発症をはじめ、早産、低体重児の出産、
産後うつ等、さまざまなリスクが高くなる可能性があります。鉄欠乏性貧血の治療によって、QOL改善や疲労感の軽減、精神障害のリスクが改善する可能性があります。
鉄欠乏性貧血を発症した場合は、治療として鉄剤の投与が必要となります。
参考文献
- 1) 日本鉄バイオサイエンス学会治療指針作成委員会編.鉄剤の適正使用による貧血治療指針改訂[第3版].響文社,2015.
- 2) Scanlon, KS, et al. Obstet Gynecol.2000;96(5):741-748.
- 3) Murphy JF,et.al. Lancet.,1886;1:992-994.
- 4) Maeda Y, et al. Int J Gynaecol Obstet.2020;148(1):48-52.
- 5) Lee HS,et al. BMC Psychiatry.2020;20(1):216.
- 6) Maureen MO,et al. Am J Med.2017;130(8):991.e1-991.e8.
- 7) WHO guideline on use of ferritin concentrations to assess iron status in individuals and populations. ISBN 978-92-4-000012-4 (electronic version)
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