血清フェリチンは体内の貯蔵鉄量の指標として有用であり、鉄欠乏性貧血の治療効果判定に役立ちます。鉄欠乏性貧血では再発防止のため、ヘモグロビン値だけでなく、血清フェリチン値の正常化まで確認した治療を行うことが重要です。しかしながら、平成21年の国民健康・栄養調査報告では、鉄欠乏とされる血清フェリチン値15 ng/mL未満の人は、日本人女性の23%(約5人に1人)、20~40歳代の女性に限ると約48%(約2人に1人)に上ることが示されています1)。
本コンテンツでは、血清フェリチン値を用いた鉄欠乏性貧血における治療効果判定や治療上の注意について解説します。
1.鉄欠乏性貧血における血液生化学値
鉄欠乏性貧血の治療効果判定は、ヘモグロビン値のみならず、他の指標も用いて判定することが重要です。以下にあげられる血液生化学値のうち、血清フェリチン値は鉄欠乏の最も鋭敏な指標であると考えられています(肝炎・膵炎では挫滅した組織からフェリチンが血中に流出することで、血清フェリチン値が増加している場合があります。また、がんや肉腫では機序不明の血清フェリチン値の増加を示すことがあります)2)。さらに、網状赤血球数は治療の有効性を判断するために有用な指標となります2)。
2. 血清フェリチンの概要
フェリチンは体内に広く分布する鉄貯蔵蛋白で、血清中に存在する血清フェリチンは体内の鉄の貯蔵を鋭敏に反映し、貯蔵鉄量の指標として有用とされています2,3)。血清フェリチン値の正常域は25~250 ng/mLと考えられており、12 ng/mL未満では鉄が欠乏している可能性があり、鉄欠乏性貧血治療が必要となる場合もあります。その一方で、関節リウマチをはじめとする自己免疫性疾患や感染、炎症などがあると、貯蔵鉄量とは関係なく血清フェリチン値が上昇することがあり、このような慢性疾患に伴う貧血との鑑別においても、血清フェリチン値の測定は有用と考えられます2,4)。
血清フェリチンは鉄欠乏性貧血以外に、産後うつやレストレスレッグス症候群、子供の注意欠乏・多動症(ADHD)とも関連することが報告されています5-8)。また、幼児期では血清フェリチン値低値は認知機能の低下につながる可能性があることも示唆されています9)。血清フェリチン値低値は基本的に鉄欠乏状態を示唆するため、鉄欠乏のリスクについても考慮することが大切です。
3. 血清フェリチン値を用いた鉄欠乏性貧血における治療効果判定
経口鉄剤による治療後の経過では、ヘモグロビン値が正常化した後に血清フェリチン値が正常化します。貯蔵鉄(血清フェリチン値)が正常化しない段階で鉄剤投与を中止すると、貧血が再発しやすいため、投与の中止時期は貧血が治癒し、かつ血清フェリチンが正常化する時であるとされています2)。。
【鉄剤投与による血清フェリチン値の変化】
経口鉄剤は貧血の消失後、さらに3~4カ月治療を継続すると、貯蔵鉄もほぼ正常化すると言われています10)。出血などで鉄の損失が多く、経口鉄剤を服用し続けても血清フェリチン値が正常化しない患者、経口投与による鉄摂取が困難な患者に対しては、静注鉄剤へ切り替えます2)。静注鉄剤の場合には、投与直後に貯蔵鉄量とは無関係に血清フェリチン値が一時的に高くなることがあり、投与終了2週間後以降に測定することが望ましいとされています2,10)。
鉄剤を投与し続けても貧血の改善が認められない場合には、鉄剤の効果を上回る鉄の損失がないか、鉄の吸収障害がないかなどを考慮しながら、原因を特定することが求められます10)。何らかの原疾患がある場合にはその治療を行う必要があります2)。
4.鉄欠乏性貧血治療の注意点と治療不十分になりやすい患者像
まとめ
血清フェリチンは体内の貯蔵鉄量の指標として有用です。
鉄剤投与による鉄欠乏性貧血治療を行い、ヘモグロビン値が正常化した場合でも、貯蔵鉄(血清フェリチン値)が正常化していないと、すぐに貧血が再発する可能性があります。
特に過多月経や持続する異常子宮出血では貯蔵鉄(血清フェリチン値)の回復に長期間を要するため、鉄剤投与と並行して原疾患の治療を行う必要があります。
鉄欠乏性貧血治療ではヘモグロビン値だけでなく、血清フェリチン値の正常化まで確認することが重要です。
参考文献
- 1) 厚生労働省.平成21年度国民健康・栄養調査報告.
- 2) 日本鉄バイオサイエンス学会治療指針作成委員会編.鉄剤の適正使用による貧血治療指針改訂[第3版].響文社.2015
- 3) 張替秀郎.日内会誌.2015;104(7):1383-1388.
- 4) 小船正義ら. 日内会誌.2006;95(10):2016-2020.
- 5) Albacar G, et al. J Affect Disord. 2011;131(1-3):136-42.
- 6) Frauscher B,et al. Sleep Med. 2009;10(6):611-615.
- 7) Wang Y, et al. PLoS One.2017;12(1):e0169145.
- 8) Oner O,et al. Child Psychiatry Hum Dev.2010;41(4):441-447.
- 9) Parkin PC,et al. J Pediatr. 2020;217:189-191.
- 10) 岡田 定.日内会誌.2010;99(6):1220-1225.
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