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鉄代謝と鉄欠乏 鉄代謝と鉄欠乏

鉄欠乏性貧血は、日常診療で遭遇する機会が多い疾患の一つです。
その診断と治療にあたっては、臨床症状と検査指標から鉄欠乏性貧血を的確に診断し、
病態に合った鉄剤を適切に使用することが重要となります。

監修
北里大学医学部 血液内科学 主任教授
鈴木 隆浩先生

鉄欠乏性貧血の診断

  • 臨床症状

    鉄欠乏性貧血の症状としては、動悸、息切れ、顔面蒼白などの貧血症状のほか、さじ状爪、舌乳頭萎縮、嚥下困難など組織の鉄欠乏による病態や異食症(氷食症)などがあります。ただし、鉄欠乏性貧血が緩徐に進行した場合には、慢性的な貧血状態に体が順応し、自覚症状が出ないこともあります。

  • 検査

    鉄欠乏性貧血の「貧血」の検査で基本となるのは血中のヘモグロビン濃度であり、成人男性では13 g/dL以下、成人女性では12 g/dL以下が貧血の目安となります。また、貧血の診断には赤血球恒数の測定も有用とされています。平均赤血球容積(MCV)と平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)は貧血の種類の診断に用いられ、MCV低値(小球)に加え、MCHC低値(低色素)であると、鉄欠乏性貧血の可能性が高くなります。また、網状赤血球数の測定は骨髄での赤血球産生能が正常であるかどうかの判定に役立ちます。このほか、血中で鉄と結合し、鉄を運搬する機能を持つトランスフェリンに関連する検査として、血清鉄(SI)、総鉄結合能(TIBC)、トランスフェリン飽和率(TSAT)の測定があります。鉄欠乏性貧血では、鉄欠乏に伴ってSIが低下し、TIBCが増加してTSAT%[(血清鉄/TIBC)×100]が低下します。

    一方、鉄欠乏性貧血の「鉄欠乏」の診断指標には血清フェリチン値を用います。フェリチンは体内の全ての細胞に存在する鉄貯蔵蛋白で、肝臓や脾臓に多く存在します。血中に存在する血清フェリチンは体内の貯蔵鉄量とよく相関し、血清フェリチン値の低下は鉄欠乏に対してほぼ100%の特異性があるとされています。血清フェリチンの正常域は25~250 ng/mLで、血清フェリチン値が12 ng/mL未満であると鉄欠乏状態と判断されます。ただし、感染や炎症を伴う場合には、貯蔵鉄の状態とは関係なく血清フェリチン値は高値を示すため、注意が必要です。

  • 鉄欠乏症貧血の診断

    鉄欠乏性貧血の診断は、「貧血」の判定にヘモグロビン値、「鉄欠乏」の判定にTIBCと血清フェリチン値を用い、ヘモグロビン12 g/dL未満、TIBC 360 μg/dL以上、血清フェリチン12 ng/mL未満を満たした場合、鉄欠乏性貧血と診断されます。また、ヘモグロビンが12 g/dL以上と正常で、血清フェリチンが12 ng/mL未満に低下している場合は、TIBCの値に関わらず、貧血のない鉄欠乏と診断されます。

鉄欠乏性貧血の治療

  • 治療の原則と選択肢

    治療に際しては、まず鉄欠乏状態に至った原因を特定し、その原因に対する治療を行うことが原則です。原因に対する治療と並行して、鉄剤投与が行われます。貧血治療に使用される鉄剤には経口鉄剤と静注鉄剤があり、経口鉄剤から治療を開始するのが一般的です。最初から静注鉄剤が選択されるのは、重度の貧血があり至急貧血を是正すべき場合、鉄損失が多く経口での鉄補給では間に合わない場合、消化器疾患があり内服が不適切な場合、などです。なお、鉄欠乏性貧血は鉄の補充で改善する貧血であるため、輸血は原則として行いません。

  • 経口鉄剤による治療

    経口鉄剤の投与量は、鉄として1日200 mgまでで十分とされています。タンニン酸、炭酸マグネシウム、胃酸分泌抑制薬、テトラサイクリン、ある種のセフェム系抗生剤によって、鉄吸収阻害をきたすことがありますが、徐放性鉄剤の場合は日本茶や紅茶で服用しても治療に影響はないとされています。ビタミンCは逆に鉄吸収を増加させます。経口鉄剤の副作用発現率は一般に10~20%とされており、大部分は悪心、嘔吐、腹痛などの消化器症状です。鉄の損失が多い患者では、経口鉄剤では不足分を補充しきれないため、経口鉄剤から静注鉄剤への切り替えが考慮されます。

  • 静注鉄剤による治療

    鉄の静脈内投与に際しては、鉄過剰にならないように、総鉄投与量を事前に計算する必要があります。計算した総鉄投与量を電子添文に従い投与するようにします。静注鉄剤は投与直後に鉄が網内系に取り込まれ、血清フェリチン値が実際の貯蔵鉄量とは無関係に高くなることがあります。副作用としては、頭痛、発熱、悪心、ショックなどが起こることがあり、注射後十分な観察が必要とされています。静注鉄剤が選択されるのは、下記に示す①~⑤などの場合で、小児に対しては原則として使用しません。また、静注鉄剤の投与によって鉄が体内に補充されると、粘膜ブロックと呼ばれる現象が発生し、消化管からの鉄吸収が抑制され、経口鉄剤がほとんど効かなくなるため、静注鉄剤と経口鉄剤の併用は避けるべきとされています。

  • 鉄剤の効果発現

    経口鉄剤は投与後数日で網状赤血球が増加し、2週間で最高値に達します。ヘモグロビンは通常6~8週間で正常化します。静注鉄剤の場合は投与後、ヘモグロビンは1日に0.15~0.30 g/dLの割合で増加し、治療が短期間で終了する利点があります。

    鉄剤の投与終了時期は、貧血が消失(ヘモグロビンが正常化)し、かつ血清フェリチンが正常化する時です。血清フェリチン値の正常化には経口鉄剤の場合、ヘモグロビンが正常化後、さらに3~4カ月の治療が必要となります。また、静脈鉄剤は投与した直後に血清フェリチン値が一時的に高くなることがあり、貯蔵鉄量を正確に評価するためには治療終了2週後以降の測定が望ましいとされています。

参考資料

  1. 日本鉄バイオサイエンス学会 治療指針作成委員会編. 鉄剤の適正使用による貧血治療指針改訂[第3版].響文社,2015

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