第2回:結合組織病に伴う肺動脈性肺高血圧症(CTD-PAH)および成人先天性心疾患(ACHD)に伴う肺動脈性肺高血圧症(ACHD-PAH)の診断手順と治療アルゴリズム
肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、肺動脈の異常に伴い肺動脈圧が上昇する肺高血圧症で、第1群に分類されます。第1群は、さらに特発性PAH、遺伝性PAH、薬剤・毒物誘発性PAH、各種疾患に伴うPAHなどに細分類されます。この各種疾患に伴うPAHには、結合組織病(CTD)に伴うPAH(CTD-PAH)や成人先天性心疾患(ACHD)に伴う肺動脈性肺高血圧症(ACHD-PAH)などが含まれます。
本コンテンツでは、CTD-PAHやACHD-PAHの診断手順や治療アルゴリズムを中心に解説します。
結合組織病(CTD)に伴う肺高血圧症の臨床分類
CTDに伴う肺高血圧症には多彩な臨床分類がみられます。PAHだけでなくPVOD:肺静脈閉塞性疾患(第1’群)、左心性心疾患に伴う肺高血圧症(第2群)、間質性肺疾患(ILD)など肺疾患に伴う肺高血圧症(第3群)、CTEPH:慢性血栓塞栓性肺高血圧症(第4群)、肺動脈炎に伴う肺高血圧症(第5群)なども生じえます。
また、これらの臨床分類の混合型もしばしばみられ、複雑な病態を呈する例も少なくありません。とくに、全身性強皮症(SSc)では、PAHだけでなく、左心性心疾患に伴う肺高血圧症や間質性肺疾患(ILD)に伴う肺高血圧症が高頻度にみられます。
結合組織病に伴う肺動脈性肺高血圧症(CTD-PAH)の診断手順
各CTDには国際的な分類基準あるいは国内での指定難病としての診断基準が作成されており、それらを参考に診断を進めます。CTD患者のうちPAHリスクの高い症例(全身性強皮症:SSc、混合性結合組織病:MCTD、全身性エリテマトーデス:SLE)は、各スクリーニングによって早期発見に努めます。
肺高血圧症を疑う臨床所見・検査所見としては、労作時の息切れ(胸骨左縁収縮期拍動、第Ⅱ肺動脈音の亢進、胸部X線像での肺動脈本幹部の拡大あるいは左Ⅱ弓の突出、心電図上の右心肥大あるいは右室負荷)、BNPまたはNT-proBNP高値(%VC/%DLCO≧1.4、原因不明の高尿酸血症)などがあります。診断には右心カテーテル検査による肺動脈圧(PAP)の測定が必須で、安静時のmPAP≧25mmHgをもって肺高血圧症と診断します。
一方、我が国の平成23年度「混合性結合組織病(MCTD)における肺動脈性肺高血圧症(PAH)診断の手引き」と平成28年度「全身性強皮症診断基準・重症度分類・診療ガイドライン」では右心カテーテル検査が必須になっていませんが、肺高血圧治療薬の使用前には必ず実施すべきとされています。
また、PAHの危険因子とスクリーニング検査結果を組み合わせて、右心カテーテル検査の適応例を絞ります。多施設共同研究DETECTの結果から、右心カテーテル検査を実施すべきSSc症例を絞り込むための2段階のノモグラムが提唱されています。本ノモグラムは、経胸壁心エコー法(TTE)のみによるスクリーニングにくらべて感度が高く、見逃しが少ないことが示されています。
CTD-PAHの治療アルゴリズム
基本的な考え方や使用薬剤はIPAH/HPAHに対する治療と同様ですが、CTD-PAHに特有なのは、免疫抑制療法です。CTD一般の治療の基本は免疫抑制療法であり、糖質ステロイド(以下、ステロイド)に加え、重症度に応じてステロイドパルス療法や免疫抑制薬が併用されます。
CTD-PAHにおける肺血管拡張薬の有効性については、さまざまな臨床試験の結果から疑う余地はないものの、基礎疾患やPAHに加え、さらにほかの肺高血圧症臨床分類が併存する複合病態の程度によって、治療反応性が大きく異なる可能性があります。IPAH/HPAHと同様に初期併用療法が有効な例がある一方で、肺血管拡張薬の併用や増量により肺うっ血や低酸素血症が悪化する例もあります。早期に肺血管拡張薬で積極的に治療を開始し、忍容性に問題なく継続できた例では、長期生命予後が良好であるというデータも蓄積されています。
成人先天性心疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症(ACHD-PAH)
先天性心疾患(CHD)のシャント性障害により生じる肺高血圧症は、ニース分類(2013年)における第1群(PAH)に属します。病因は、初期の大量の左右シャント性の高肺血流による肺動脈内皮障害から生じる肺動脈閉塞性病変で、その組織学的障害の程度はHeath-Edwards分類で表現され、グレード4以上の病変は不可逆性とされています。
CHD-PAHのもっとも重要な特徴は、組織学的所見および肺高血圧治療薬の反応性がIPAHに酷似していることです。個々のCHD-PAH症例に対し、均一な治療指針を提唱することは正確には困難であるものの、ガイドラインではACHD-PAHを表に示すような4つのグループに分類しており、それぞれの分類に対する治療指針が推奨されています。
ACHDの症状は、息切れとチアノーゼ、ばち指であり、これらの有無によって肺高血圧症合併を鑑別に挙げることが大切です。ACHD患者を診察する際は、心電図、胸部X線、およびTTEをルーチン検査として行うべきであり、TTEにおいて肺房室弁(正常の場合は三尖弁)圧較差(TRPG)が上昇している場合は、肺高血圧症の診断手順に従って一般の肺高血圧症の診断を進め、シャント性ACHD-PAHの鑑別を行います。
◆エビデンスレベル
- レベルA(高)
- :
- 多数の患者を対象とする多くの無作為臨床試験によりデータが得られている場合
- レベルB(中)
- :
- 少数の患者を対象とする限られた数の無作為試験,あるいは非無作為試験または観察的登録の綿密な分析からデータが得られている場合
- レベルC(低)
- :
- 専門家の合意が勧告の主要な根拠となっている場合
◆推奨クラス分類
- クラスI
- :
- 手技・治療が有用・有効であることについて証明されているか,あるいは見解が広く一致している(推奨/適応)
- クラスII
- :
- 手技・治療の有用性・有効性に関するデータまたは見解が一致していない場合がある
- クラスIIa
- :
- データ・見解から有用・有効である可能性が高い(考慮すべき)
- クラスIIb
- :
- データ・見解により有用性・有効性がそれほど確立されていない(考慮してもよい)
- クラスIII
- :
- 手技・治療が有用・有効ではなく,ときに有害となる可能性が証明されているか,あるいは有害との見解が広く一致している(推奨不可)
ま と め
- CTDに伴う肺高血圧症には多彩な臨床分類がみられます。
- CTD患者の中でもPAHのリスクが高い症例(SSc、MCTD、SLE)では、スクリーニングを実施し、CTD-PAHの早期発見に努めます。
- CTD-PAH治療の基本的な考え方や使用薬剤はIPAH/HPAHに対する治療と同様ですが、免疫抑制療法はCTD-PAHに特有です。
- ACHD-PAHは4つのグループに分類されており、それぞれの分類に対して診断・治療指針が推奨されています。
References:日本循環器学会:肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2017_fukuda_h.pdf(2021年11月閲覧)
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