その肺疾患には
肺動脈性肺高血圧症に準じた病態が
潜んでいるかもしれません。
監修
千葉大学大学院医学研究院
呼吸器内科学 准教授
坂尾 誠一郎 先生
肺疾患と肺高血圧症の関係
肺高血圧症とは
- 肺高血圧症は、安静時に右心カテーテル検査を用いて測定した平均肺動脈圧(mPAP)が25mmHg以上を示す場合に診断され、重症化すると右心不全に至る疾患です。
- 2018年の第6回肺高血圧症ワールドシンポジウム(Nice 2018)では、mPAP>20mmHgを肺高血圧症の定義とすることが提言されています1)。
- 肺疾患に併発し得る肺高血圧症の中には、第3群(肺疾患や低酸素血症に伴う肺高血圧症)のほか、第1群のPAH(肺動脈性肺高血圧症)の症例や両者の合併例も存在します。
1)Simonneau G, et al: Eur Respir J 53: 1801913, 2019
肺疾患に伴う肺高血圧症の発症機序
肺疾患に伴う肺高血圧症の病態には、肺の実質・間質性病変だけでなく、PAH様の肺血管病変など多くの要因が関与していると考えられています。
2)Tuder RM, et al: J Am Coll Cardiol 62: D4-12, 2013
3)日本肺高血圧・肺循環学会 監: 肺疾患に伴う肺高血圧症診療ガイドライン. 2018
肺疾患に伴う肺高血圧症の併発割合とその予後
- 肺高血圧症を併発する慢性肺疾患の患者さんは、肺高血圧症を併発しない場合と比較して予後不良です4)。
- 肺高血圧症を併発する可能性がある慢性肺疾患は、肺胞低換気症候群や睡眠時無呼吸症候群など多岐にわたりますが、特に臨床において遭遇する機会が多いのはCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、IPF(特発性肺線維症)、CPFE(気腫合併肺線維症)に伴う肺高血圧症です5)。
肺疾患に潜む肺高血圧症
肺疾患に肺高血圧症を伴うと予後不良であり、特にCOPD、IPF、CPFEの患者さんは肺高血圧症の併発に注意する必要があります。そのほか喘息や長引く咳などの症状がある場合でも肺高血圧症が潜んでいる可能性があります。
4)Hurdman J, et al: Eur Respir J 39: 945-955, 2012
5)日本循環器学会ほか:肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版). 54, 56, 2018
6)Oswald-Mammosser M, et al: Chest 107: 1193-1198, 1995
7)Hamada K, et al: Chest 131: 650-656, 2007
8)Kimura M, et al: Respiration 85: 456-463, 2013
9)Behr J, et al: Eur Respir J 31: 1357-1367, 2008
10)Minai OA, et al: Respir Med 106: 1613-1621, 2012
11)Nathan SD, et al: Respiration 76: 288-294, 2008
12)Shorr AF, et al: Eur Respir J 30: 715-721, 2007
13)Nathan SD, et al: Chest 131: 657-663, 2007
14)Tanabe N, et al: Respirology 20: 805-812, 2015
15)Leuchte HH, et al: Am J Respir Crit Care Med 173: 744-750, 2006
16)Lettieri CJ, et al: Chest 129: 746-752, 2006
17)King TE, et al: Am J Respir Crit Care Med 164: 1171-1181, 2001
18)Nadrous HF, et al: Chest 128: 2393-2399, 2005
19)Tanabe N, et al: Respir Investig 52: 167-172, 2014
肺高血圧症を疑うポイント
肺疾患と肺高血圧症では共通する臨床症状が多いため、肺疾患により肺高血圧症の症状がマスクされ、
診断が遅れる一因となることに注意が必要です。
日常のご診療において、肺疾患の程度に不釣り合いな症状が生じている患者さんはいらっしゃいませんか?そのような場合には肺高血圧症を疑ってみてください。
※本コンテンツでご紹介した「自覚症状」は、“日本循環器学会ほか:肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版). 11, 2018”に基づいて記載しております。
肺疾患に伴う肺高血圧症の鑑別診断
肺疾患において、第1群(PAH)、第3群の肺高血圧症を支持する因子は表のとおり報告されていますが、すべての所見が必ずしもあてはまるわけではありません。
両群の境界を正確に鑑別する方法はないため専門医による慎重な判断が必要です。
Christopher SK, et al: Chest 158: 1651-1664, 2020より改変
監修者の見解を併せて掲載
肺疾患に伴う肺高血圧症の治療
肺疾患に伴う肺高血圧症において、第1群(PAH)が併発しているかどうかを正確に判断することは極めて難しく、治療は肺高血圧症と慢性肺疾患に精通した専門施設で行うことが推奨されています。
*:日本循環器学会ほか:肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版). 55-56, 2018を参考に作成
肺高血圧症の患者さんを救うために
肺疾患に伴う肺高血圧症の患者さんを発見するためには、日常的に肺疾患を診られている先生方の目が重要です。肺疾患による息切れが第1群(PAH)の症状をマスクしてしまう可能性があることを念頭において、診療にあたっていただくことが大切です。
本コンテンツにてご紹介した自覚症状や、検査所見から少しでも肺高血圧症が疑われる場合はためらわずに専門医・専門施設への紹介をご検討ください。
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お気に入りメモ
COPD(慢性閉塞性肺疾患)、IPF(特発性肺線維症)、CPFE(気腫合併肺線維症)などの肺疾患には、予後の悪化につながる肺高血圧症が潜んでいる可能性があることをご存知でしょうか。肺疾患に伴う肺高血圧症の病態は多彩であり、診療方針は慎重に検討する必要があるため肺高血圧症が疑われる場合は専門医へ早期に紹介いただくことが重要です。
本コンテンツでは、肺疾患に潜む肺高血圧症を疑うポイントとして自覚症状や検査所見などを掲載しています。世界的にも肺疾患の有病率は高く、過去に報告されている肺高血圧症の併発率からも潜在的な肺高血圧症の患者さんは多く存在していると考えられます。
肺高血圧症には疾患特異的な症状がないため、疑うことが早期診断への第一歩となります。
日常のご診療の中に潜む肺高血圧症の患者さんの早期発見に本コンテンツをお役立てください。