肺高血圧症は予後不良な進行性の疾患で、特発性肺動脈性肺高血圧症では未治療の場合、診断からの予後は2.8年と報告されてきました※。しかし、近年では治療の進歩により、予後は大幅に改善しています。
※:D'Alonzo GE et al. Ann Intern Med 1991; 115: 343-349.
我が国の最近の報告では、専門施設で治療が開始された肺動脈性肺高血圧症(PAH)患者さんの3年生存率は95.7%と、非常に良好な治療成績が得られています。肺高血圧症患者さんの予後改善のためには、患者さんを正しく診断し、適切な時期に十分な治療介入を行う必要があります。
基幹病院と専門施設に肺高血圧症専門外来を開設し、区域全域から肺高血圧症患者さんを紹介する体制を構築、基幹病院と専門施設の医師が連携を取りながら診療を行う事例もあります。
そこで今回は、肺高血圧症診療の流れと専門施設へ紹介いただく際のポイントについてご紹介します。
こちらは肺高血圧症治療ガイドラインに掲載されている肺高血圧症の診断手順です。
肺高血圧症の診断は症状や病歴、身体所見を疑うことから始まります。肺高血圧症の症状は息切れ、胸痛など非特異的で、初期の段階では多くの患者さんが労作時の息切れを訴えます。このため、「説明のつかない息切れ」を訴える患者さんがいる場合には肺高血圧症も鑑別疾患のひとつとして考えることが大切です。
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肺高血圧症が疑われる症状・病歴・身体所見
また、全身性強皮症や混合性結合組織病などの膠原病患者さん、間質性肺炎やCOPDなどの呼吸器疾患患者さんでは肺高血圧症を合併するリスクが一般人口に比べて高いことが知られています。
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膠原病の患者さん
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呼吸器疾患の患者さん
※COPD:慢性閉塞性肺疾患
このような患者さんにおいて、肺高血圧症の可能性を判断するためには心エコー図検査が有用です。心エコー図検査では、三尖弁逆流ピーク血流速や左室の圧排など、機能や形態から肺高血圧症を判断します。肺高血圧症の可能性がintermediate以上であれば、
肺高血圧症の原因となりうる疾患の有無や慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の可能性を検討するために、下記に示すような各種の検査を実施します。
そのうえで、右心カテーテル検査にて、安静時平均肺動脈圧が25mmHg以上であれば肺高血圧症と確定診断します。しかし、肺高血圧症には1群から5群までの分類があるだけでなく、1群の中でも多彩な病態があります。
ここで間違った診断のまま治療すると、効果が得られないだけでなく悪化する可能性もあるため、正確な診断が必要となります。したがって、「右心カテーテル検査をすぐに実施できない」、「CTEPHの鑑別に必要な肺換気-血流シンチグラムの機器がない」、「鑑別診断に不安がある」といった場合には専門施設への紹介を考慮する必要があります。
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専門施設への紹介を考慮すべきケース
また、治療に関しても、肺高血圧症の原因によって迅速に強力な治療が必要なケースもあれば、治療介入を慎重に判断する必要がある場合もあります。下記に示すような症例ではためらわず専門施設への紹介をご検討ください。
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専門施設への紹介を考慮すべきケース
I/HPAH:特発性/遺伝性肺動脈性肺高血圧症
PEA:肺動脈血栓内膜摘除術
BPA:バルーン肺動脈形成術
そして、肺高血圧症患者さんの診療を進めるためには、地域内での基幹病院と専門施設の連携が重要となります。冒頭でご紹介したように、基幹病院の肺高血圧症専門外来にて、基幹病院と専門施設の医師とが相談しながら診療を行っている事例があります。
これにより、肺高血圧症を診療しない病院や診療科、開業医の先生から肺高血圧症疑いの患者さんが紹介され、時期を遅らせることなく適切な診断、治療が可能となっています。
肺高血圧症を上手くコントロールできれば、
地元の医療機関に通院いただくこともでき、患者さんの
負担軽減にもつながります。
患者さんのさらなる予後の改善のためにも、
日常のご診療の中で肺高血圧症疑いの患者さんが
いらっしゃればすぐに地域の専門施設へ
ご紹介ください。
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