第1回


肺高血圧症(PH)は希少疾患であり、専門医が少なく、適切な診断・治療が難しい疾患のひとつと
いわれています。一方、早期に診断して適切な治療につなげれば、予後が変わる可能性が
ある疾患でもあります。そのため、PH診療では、PH専門医と一般診療に携わる先生との
連携が重要となります。そこで本シリーズでは、PH診療においてスムーズに連携
されているPH専門医の先生と一般診療に携わる先生にご登場いただき、
それぞれのお立場から連携のポイントを解説いただきます。
今回は、足立 史郎先生(名古屋大学医学部附属病院 循環器内科)と
畳 陽祐先生(豊田厚生病院 循環器内科)に、
「肺高血圧症診療におけるそれぞれの役割」
などについて対談いただきました。
ご出演・ご監修

足立 史郎 先生
名古屋大学医学部附属病院
循環器内科 病院助教

畳 陽祐 先生
豊田厚生病院
循環器内科 病棟医長
PH診療において、
PH専門医と一般診療に携わる先生が連携することは、
なぜ重要なのでしょうか?
足立先生
PHは希少疾患ですので、一般診療をされている先生方は遭遇する機会は少ないかもしれません。しかし、最近は種々の肺血管拡張薬が登場して治療方針も変わってきており、一般診療をされている先生方はアップデートするのは大変だと思います。したがって、PHが疑われる患者さんは、地域のPH専門施設に紹介いただいて、
そこで集約的に治療することが必要だと考えています。
そもそもPHはさまざまな疾患の表現型ですので、その原因疾患を的確に診断することが非常に重要です。
しかし、その診断手順は難しく、スムーズに診断し治療に向かうこと自体が総合病院の先生方の負担になってしまうのではないかと考えています。そういった意味でも、診断を含め、PH患者さんは専門施設へ集約化することが重要だと考えています。
畳先生
PHを専門としていない立場から申しますと、足立先生がおっしゃったように、私たちはPH症例に遭遇する機会はさほど多くはありませんし、PHの治療方針をアップデートする機会も限られています。また、PHは診断や治療が遅れると、予後に影響を与える疾患ですし、循環器内科を受診した時点で重篤であるケースもあります。いずれにせよ、早期に診断して適切な治療につなげるためにも、専門施設との連携は欠かせないと考えています。当院は、名古屋大学と連携していますが、足立先生に適宜相談しながら診療を進めています。困ったときに相談できる施設があるというのは、非常に心強いと感じています。
PHをご専門とされていない総合病院の先生がPHを疑うことは、
なぜ重要なのでしょうか?
足立先生
PHは予後が不良な疾患といわれてきましたが、ここ最近の治療進歩に伴い、早期に診断して早期に治療を開始すれば良好な予後が見込める疾患となりました。そのため、いかに早く診断をして、治療を開始するかということが極めて重要となります。総合病院の先生には「PHを疑ったら、なるべく早く紹介してください」とお願いしたいです。実際、私たちのグループの研究の結果、東海地域におけるPHの予後因子は、診断時の血行動態や運動耐容能ではなく、診断をしてから併用療法開始までの期間であることがわかりました1)。したがって、
少なくともわれわれの地域では、早期にセンター施設に紹介してもらい早期に適切な治療を開始することが、
PH患者さんの予後を改善するための重要なポイントであると考えています。
1)Can J Physiol Pharmacol. 2020 Sep;98(9):653-658.
PHをご専門とされていない総合病院の先生にお願いしたい
役割について教えてください。
足立先生
お願いしたい役割については大きく2つあります。1つ目は、まず疑っていただき、躊躇することなく紹介していただくことです。それが最もお願いしたい役割です。2つ目は、安定した患者さんの継続治療です。PH患者さんは、専門施設ですべて受け入れるのが理想ではあるものの、やはりマンパワー不足は否めません。ですので、たとえば治療が奏効して十分落ち着いた患者さんや、専門施設には通院が難しい遠方の患者さんなどの継続した治療をお願いできれば助かります。最近は、漸増しながら至適用量を調整する薬剤が増えてきており、その漸増期間に時間がかかるので、そのような薬剤の漸増についても可能であればお願いしたいと考えています。
基幹病院にお願いしたい役割
1.まず疑い、躊躇なく紹介
2.安定した患者さんの継続治療

日常診療において、隠れているPHを疑うための
臨床症状があればお教えください。
足立先生
PHの臨床症状は非典型的で、「この症状があればPH」とは一概には言えません。そのことを踏まえたうえでPHを疑うポイントになるのは「息切れ」です。息切れは心不全にもみられる症状ですが、ここで注意していただきたいのは、PH患者さんの息切れは、徐々に出てくることが多いということです。そのため、患者さんのなかには、息切れ自体に慣れてしまい、「あまり生活に困っていない」とおっしゃる方がいらっしゃいます。
したがって、PHの息切れを見つけるためには具体的に問診することが重要です。「息切れがありますか?」とyes/noで回答できる質問では適切な答えが返ってこないので、たとえば、「同年代の方と同じペースで歩けますか?」、「階段で2階まで上れますか?」などのように、生活の一部を切り取った具体的な質問が有用です。
実臨床では、実際に歩いてもらい、そのときの呼吸状態などをみてPHを疑うこともあります。
注意するポイント
PH患者さんの息切れは、徐々に出てくることが多い
畳先生
息切れは心不全症状のひとつですので、私が普段診療している患者さんのなかでも比較的多くみられる症状です。当院は地域の基幹病院ですので、息苦しくて飛び込みで受診される方もいれば、かかりつけ医の先生から原因不明の息切れで紹介される方もいます。患者数が多く、診療時間も限られているので、息切れについて詳しく聞けていない可能性があります。私自身は、症状だけでPHを疑うというよりは検査の値も参考にしてPHを疑うことが多いです。
PHの息切れを見つけるために
具体的に問診することが重要
―生活の一部を切り取ったような質問が有用
足立先生
確かに、循環器を受診される患者さんは息切れを訴える方が多いですよね。PHの見逃しを防ぐポイントは、「若いから大丈夫」、「年だから仕方がない」と勝手に解釈しないことだと思います。若い方、高齢の方のいずれの息切れでも、ある程度評価することは重要だと考えています。
PHを疑い、専門施設へ紹介したご経験を教えてください。
畳先生
PHを疑い名古屋大学に相談した症例は数例あります。当院のケースでは、外来で息切れがありPHを疑い相談したという症例は少なく、入院が必要になるような息苦しさを呈していた症例がほとんどです。そういった症例に心エコー検査を行い、PHが疑われたので相談しました。なかには転院になった方もいますし、PH専門医の先生の意見を聞きながら当院で継続治療をされた方もいます。
専門施設へ相談するタイミングは、心エコー検査でPHを疑ったときが多いです。心エコー検査でPHを疑ったら、まず一報を入れて、PH専門医の先生にアドバイスをいただくようにしています。
足立先生
総合病院で診療していると、外来の患者さんを複数の医師の目で診る機会は少ないですよね。入院しないと「何の病気だろうな?」と思っていても、なかなか結論が出ないことを経験されているかと思います。外来でPHっぽいなと思ったらそのまま紹介していただく方が、患者さんにとっても医療者にとってもスムーズで理想的な流れだと思っています。

PHの早期発見・早期診断をするために、
他診療科と連携はされていますか?
畳先生
PHの早期発見に関しては、ほかの診療科との連携は十分にできていないのが現状です。PHが潜在している疾患を診療しているのは、呼吸器内科、膠原病内科、皮膚科、腎臓内科などになると思いますが、現時点では、
それらの科の先生に対して、直接PHの注意喚起などはできていません。ただ、循環器系に異常があれば気軽に相談いただいてはいますので、そういった通常の連携はスムーズです。PHの早期発見のためには、他科の先生方にPHの疾患啓発をしていくことは必要だと思いますので、今後検討していきたいと考えています。
足立先生
畳先生がおっしゃったように、呼吸器内科、膠原病内科、皮膚科、腎臓内科などを受診される患者さんのなかには、PHが潜在している可能性がありますので、それらの科の先生方に日頃からPHに興味を持っていただくような取り組みが必要だと考えています。このような他科との連携強化のために、院内でPHチームを作ることも大切だと思っています。加えて、患者さんの集約化を考慮すると、院内だけでなく地域でのPHチームを作ることも必要だろうと考えています。


足立先生、畳先生、
ありがとうございました。
次回は、引き続きおふたりの先生に、
「PHが疑われる患者さんをPH専門医へ
紹介する目安やタイミング」
などについて対談いただきます。
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