第2回


肺高血圧症(PH)は希少疾患であり、専門医が少なく、適切な診断・治療が難しい疾患のひとつと
いわれています。一方、早期に診断して適切な治療につなげれば、予後が変わる可能性がある
疾患でもあります。そのため、PH診療では、PH専門医と一般診療に携わる先生との
連携が重要となります。そこで本シリーズでは、PH診療においてスムーズに
連携されているPH専門医の先生と一般診療に携わる先生にご登場いただき、
それぞれのお立場から連携のポイントを解説いただきます。
今回は、前回に引き続き、足立 史郎先生(名古屋大学医学部附属病院
循環器内科)と畳 陽祐先生(豊田厚生病院 循環器内科)に、
「肺高血圧症が疑われる患者さんをPH専門医へ紹介する目安や
タイミング」などについて対談いただきました。
ご出演・ご監修

足立 史郎 先生
名古屋大学医学部附属病院
循環器内科 病院助教

畳 陽祐 先生
豊田厚生病院
循環器内科 病棟医長
PHが疑われる患者さんをPH専門医へ紹介する目安や
タイミングを教えてください。
畳先生
PHは、早期に見つけて早期に相談することが非常に重要だと考えています。したがって、なるべく入院が
必要となる前の状態で相談し、重症化を防ぐようにしていかなければならないと考えています。
足立先生
おっしゃるように、なるべく早めに相談いただきたいです。「紹介」という形式でなくとも、お気軽に電話で一報いただければと思います。具体的な目安としては、「三尖弁逆流圧較差(TRPG)が40mmHgを超えていたら」ぜひ相談してください。あまり複雑な基準を作ると混乱が生じるので、当院ではこのようなシンプルな目安を提案しています。TRPGの値だけでは、大学病院への紹介に躊躇される先生方が多いと思いますが、「PHでなくても全く問題ない」といったスタンスで、間口を広く取るようにしています。
PHが疑われる患者さんを
PH専門医へ紹介する目安
「三尖弁逆流圧較差(TRPG)が40mmHgを超えていたら」ぜひ相談を
一般診療に携わる先生が行うべき検査はありますか?
足立先生
循環器の先生でしたら、心エコー検査を行ってもらい、先ほど申し上げたとおり、「TRPGが40mmHgを超えていたら」紹介いただきたいです。それ以外の検査は、医師にとっても、患者さんにとっても負担になってしまいますので、行わなくて構いません。というのも、総合病院と専門施設で行う検査では、目的が異なるからです。市中病院の先生方が行う検査は、PHを疑い、診断するための検査になると思いますが、専門施設では、同じ検査でも、PHの治療戦略を立てるための検査になります。たとえば、血流シンチグラフィは、肺血流シンチだけでなく肺換気シンチも必要になりますし、カテーテル検査は、NO負荷試験や運動負荷をかけて行うことがあります。したがって、患者さんによっては同じ検査を2回受けていただくことになってしまうので、一般診療に携わる先生は、詳細な検査は行わなくても問題ないと考えています。
一方、PH患者さんの入り口となり得る呼吸器内科や消化器内科では心エコー検査の実施が難しいかもしれません。しかしCTは頻繁に撮ると思います。CTでの肺動脈の拡大や右心系の拡大でスクリーニングできます。このように、エコーにこだわらず、それぞれの科の先生方が日常診療でよく行う検査でPHを疑っていただければと思います。

PH患者さんを逆紹介する際の基準や、
逆紹介された際のフォローアップのポイントを教えてください。
足立先生
逆紹介する患者さんは、PHのなかでもある程度疾患が限られます。たとえば、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)などの安定したらあまり変化がない症例です。ただ逆紹介する際も、定期的に実施していただきたい検査や、気を付けていただきたい症状など、フォローアップのポイントを紹介状に添えていますし、可能であれば当院で年に1回でもフォローし紹介先の先生とコミュニケーションがとれればと思って取り組んでいます。
畳先生
当院には逆紹介されてフォローアップしている患者さんが数名いらっしゃいます。フォローアップの頻度に関しては、私個人では月に1回の方が多いです。血液検査は、肝機能や腎機能に加えて、NT-proBNPもチェックしています。心エコー検査に関しては、安定している患者さんであれば、半年に1回程度実施しています。
フォローアップ中に症状が悪化した場合は、専門施設へ相談します。また、症状の悪化がなくても、心エコー検査でTRPGが上昇傾向にあるなどの気になる所見があれば、早めに一報を入れるようにしています。
フォローアップのポイント
- 頻度 月に1回
- 血液検査 肝機能や腎機能に加えて、NT-proBNPもチェック
- 心エコー検査 安定している患者さんであれば、半年に1回程度
足立先生
「紹介」という形式をとると、患者さんの環境もありますし、先生方の敷居が高いかもしれませんので、畳先生のように、気軽に問い合わせをしていただくのがよろしいと思います。
畳先生
相談しやすい環境があり、日常診療を行ううえでも本当に心強いです。
スムーズに連携するために意識されている
ポイントを教えてください。
足立先生
大事なのは、医師同士がお互いを知っていることだと思います。やはり、名前しか知らない先生に紹介するのは敷居が高いのではないでしょうか。よくいわれますが、「お互いの顔が見える関係」を築くことが重要だと感じています。最近はコロナ禍で、対面での関係は築きにくくなっていますが、リモートの研究会などで顔を合わせ近況を報告したりするだけでも、関係構築に効果はあると思います。
畳先生
私は、大学に所属していた時期があるため、足立先生とコミュニケーションをしっかりとれる環境にあるのですが、若い医師は、PH症例を大学のPH専門医に直接相談することに対して、敷居が高いと感じているようです。そのため、最近は、私自身のつながりを若い医師に利用してもらっています。たとえば、若い医師がPH症例で困っていたら、私がその症例を専門施設へ仲介し、後は専門施設の先生と若手の医師で連携して対応してもらっています。このように、連携を広げることを意識しています。
足立先生
それはよい取り組みですね。総合病院の先生方はすごく忙しいので、全員がPHを診るということは不可能だと思います。ですので、畳先生のような、PHに興味を持ち窓口になる先生がいらっしゃると、その先生を通じてコミュニケーションがとりやすくなります。若い医師の指導にもつながりますし助かります。

それぞれのお立場から、PH診療に携わる先生方へ
メッセージをお願いします。
足立先生
PHの予後は、以前と比べて格段によくなっています。一方、PHを専門としない先生方にとっては、とても難しい疾患ということには変わりないと思います。したがって、患者さんの良好な予後のためには、PHを疑いましたらすぐに専門施設へ相談いただき、そちらで適切な診断や治療を進めることが、患者さんにとって一番よい流れではないかと考えています。総合病院の先生方には、ぜひ、早期の紹介をお願いしたいです。
畳先生
私にとっては、PHは少ないながらも遭遇する機会がある疾患です。遭遇したときに、自分はどのような対応をするべきかということを、常に念頭に置いておく必要があると思います。私は、PHに遭遇した場合は、すべてを自分で解決することは難しいと考えているので、PH専門医の先生に相談します。早めの連携は、患者さんのためになると考えているからです。一般診療に携わる先生は、自分ひとりで抱え込まずに、相談先を探して専門の先生に相談することが非常に重要だと考えています。


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