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肺高血圧症(PH)は希少疾患であり、専門医が少なく、適切な診断・治療が難し
い疾患のひとつといわれています。一方、早期に診断して適切な治療につなげれば、
予後が変わる可能性がある疾患でもあります。そのため、PH診療では、PH専
門医と一般診療に携わる先生との連携が重要となります。そこで本シリーズ
では、PH専門医の先生と一般診療に携わる先生にご登場いただき、
それぞれのお立場から連携のポイントを解説いただきます。
今回は、西山 理先生(近畿大学医学部内科学教室 呼吸器・アレルギー
内科部門)と市橋 秀夫先生(市橋内科)に、「肺疾患に潜む肺高
血圧症を疑うポイント」などについて対談いただきました。

ご出演・ご監修

西山 理 先生
近畿大学医学部内科学教室
呼吸器・アレルギー内科部門
特命准教授

市橋 秀夫 先生
市橋内科 院長

日常の診療では
どのような患者さんを診療されることが多いのでしょうか?

西山先生

私は呼吸器内科医ですので、肺疾患をメインに診療しています。間質性肺炎、肺高血圧症(PH)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺癌、急性肺疾患などを診療していますが、特にそのなかでも専門である間質性肺炎を多く診療しています。

市橋先生

私は開業医ですので、高血圧、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症などの生活習慣病や、消化器症状、感染症といった急性期疾患など内科全般の診療を行っております。また、呼吸器専門医でもありますので、気管支喘息、肺気腫、睡眠時無呼吸症候群の患者さんを多く診療しています。最近は咳を訴えて来院される患者さんも増えています。

肺疾患に潜むPHを早期に発見し、早期に治療介入することは、
なぜ重要なのでしょうか?

西山先生

PHは、その原因ごとに大きく第1~5群の5つに分類されています(図1)。このうち、第1群に分類される肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、従来は予後不良の疾患でしたが、最近は治療法や治療薬が進歩し、早期に診断して早期に治療介入すれば良好な予後が見込めるようになってきました。
私たち呼吸器内科医が診療する肺疾患に併発するPHは、第3群(肺疾患や低酸素血症に伴うPH)が多いのですが、なかには第1群のPAH主体の症例や、第1群と第3群が合併しているような症例も存在します。こういった肺疾患に紛れているPAHを見つけ出し、適切に治療介入すれば、患者さんの予後を改善することが期待できます。近年、多くの肺動脈性肺高血圧症治療薬の登場と治療法の進歩により、PAHの予後は改善されてきています。肺疾患に潜むPHについても、予後改善が期待される患者さんが存在すると考えられています。

肺疾患に隠れているPHを疑う臨床症状を教えてください。

西山先生

PHを示唆する症状のひとつは、「労作時の息切れ」です。ただし、COPD、間質性肺炎などの肺疾患も息切れが主な症状ですので、息切れのみからPHの合併を疑うのは難しいと思います。そこでポイントとなるのは、「肺疾患の程度を超えた労作時の息切れ」です。肺疾患の重症度から想定する息切れよりもひどい息切れがある場合は、PHが存在する可能性があります。
このPHにおける労作時の息切れは、「普段息切れはありますか?」という問診の仕方だと見つけ出すことが困難な場合があります。なぜなら、PHの息切れは徐々に出てくることが多いため、患者さんが慣れてしまい、息切れを自覚していないことがあるからです。そのため、問診では、「同世代の方と比べてどうですか?」、「1年前と比較して、階段を上るときに息が上がりやすくなりましたか?」などのように、具体的に尋ねることが有用です。また、ご家族が診察に同席されている場合は、ご家族から見た症状を聞き出すことも重要です。

PHを示唆
する症状

労作時の息切れ

ポイント

肺疾患の程度を超えた労作時の息切れ

問診の
ポイント

具体的に尋ねることが有用

・同世代の方と比べてどうですか?

・1年前と比較して、階段を上るときに息が上がりやすくなりましたか?

開業医の先生方の施設でも実施される
検査での所見を教えてください。

市橋先生

肺疾患の患者さんに当クリニックで普段実施している検査は、血液検査、X線検査、心電図検査、Dダイマー測定です。以前は肺機能検査も行っていましたが、最近はコロナ禍のため、積極的には行っていません。

西山先生

市橋先生がおっしゃったように、血液検査(BNP、NT-proBNP)、X線検査、心電図検査が一般的な開業医の先生も行っている検査だと思います。PHを示唆する症状とこれらの検査の結果を総合的に判断してPHを疑っていただきたいです。
検査については、まず、サチュレーション(SpO2)を測定していただくのがよいと思います。X線検査などから判断した肺疾患の重症度よりもSpO2が低い、あるいは、診察室のなかを少し歩いてもらうだけでもSpO2が著明に下がる場合は、PHが存在する可能性があります。
心電図は、軽症例では心電図波形が正常であることも珍しくないのですが、重症になると、右室負荷による心電図変化が出現します。右軸偏位や心房細動、心房粗動などが認められた場合は、PHの可能性があります。
X線検査については、肺疾患が合併していると、PHをX線検査で見つけ出すことは難しいのですが、肺動脈の拡張、右室の拡大、右房の拡大などがあればPHを疑う所見になります。先ほども申し上げたように、PHは早期治療で良好な予後が見込める場合があります。したがって、これらの症状や検査でPHを疑った場合は、なるべく早く近隣の専門施設へ紹介していただきたいと思います。

血液検査(BNP、NT-proBNP)、
X線検査、心電図検査
サチュレーション(SpO2)を測定

これらの検査で
PHを疑った場合は、なるべく早く
近隣の専門施設へ紹介を

PHを疑い、近隣の専門施設へ紹介したご経験を教えてください。

市橋先生

私自身が診療していて、「これはPHだろう」と疑って紹介した経験は今のところありません。ただ、最近、PHを疑って紹介したわけではないものの、紹介先の基幹病院でPHの可能性が高いかもしれないといわれた症例はあります。

西山先生

それはどういう症例だったのですか?

市橋先生

70代の男性で、気腫合併肺線維症(CPFE)をずっとフォローしていた患者さんです。そろそろ在宅酸素療法を導入しようかと考えていたタイミングで、動作時のSpO2が80%台に下がってしまいました。詳しく問診したところ、「階段を上るのがしんどい」、「布団の上げ下ろしがかなりつらい」とのことでした。私自身は、元々の間質性肺炎が進行したと考えて紹介したのですが、心エコー検査の結果からPHが存在している可能性が高いと返答いただきました。

西山先生

間質性肺炎と肺気腫が合併しているCPFEは、PHが合併しやすい疾患のひとつです。COPD、特発性肺線維症(IPF)など単独の肺疾患でもPHが潜んでいる可能性があります。これらの肺疾患を診療する際は、PHが合併している可能性を念頭に置くことが重要です。

間質性肺炎と肺気腫が合併しているCPFEは、
PHが合併しやすい疾患のひとつ
COPD、特発性肺線維症(IPF)などの
肺疾患にもPHが潜んでいる可能性

これらの肺疾患を診療する際は、
PHが合併している可能性を
念頭に置くことが重要

西山先生、市橋先生、
ありがとうございました。
次回は、引き続きおふたりの先生に、
「肺疾患に潜む
肺高血圧症の連携のポイント」
などについて対談いただきます。

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