第1回肺動脈性肺高血圧症(PAH)
診療における
かかりつけ医の役割

ご監修

  • 国立循環器病研究センター
    心臓血管内科部門 肺循環科

    医長 大郷 剛 先生

今回は、大郷 剛先生(国立循環器病研究センター 心臓血管内科部門 
肺循環科 医長)に、第1群に分類される肺動脈性肺高血圧症(PAH)診療における、かかりつけ医の先生方の役割についてご解説いただきます。

肺高血圧症の分類

肺高血圧症(PH)とは、肺動脈圧が高くなることで、心臓と肺の機能障害をもたらす予後不良な進行性の疾患群です。
PHは、その原因ごとに大きく5つに分類されています。肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、肺動脈の異常に伴い、肺動脈圧が上昇するPHで、第1群に分類されます。PAHは、原因が特定されていないもの(特発性)、遺伝子変異によるもの(遺伝性)、膠原病(結合組織病)や先天性心疾患や肝疾患など他の病気に関連して発症するものなどに分類されています。

未治療の場合のPAHの予後

米国より、特発性/遺伝性肺動脈性肺高血圧症(IPAH/HPAH)の診断からの予後は2.8年と報告されており1)、1年生存率が68%、2年生存率が48%、3年生存率が34%と算出され、未治療の場合、PAHはきわめて予後不良の疾患とされます。一方で、国内の専門施設で治療開始した場合のPAH患者さんの3年生存率は95.7%と報告されており、予後が改善されてきています2)

  • 1)D’Alonzo GE, et al. Ann Intern Med. 1991;115(5):343-9.
  • 2)Y. Tamura, H. Kumamaru, T. Satoh, et al. Circ J, 82 (2017), pp. 275-282.

肺高血圧症の進行過程

肺動脈圧が高くなり始めた初期の段階では、安静にしていると治療介入の遅れにつながります。一方、病状が進行し、右心室の機能が障害されてくると、画面下で示すような症状が出てきます。そのため、PHが進行してリスクが高い段階でみつかるケースが多く、この診断の遅れが治療介入の遅れにつながっていると考えられます。

PAHの早期診断・
早期治療の重要性

近年、PAHは治療法が進歩し、早期に診断して治療介入すれば、良好な予後が見込めるようになっています。
患者さんの予後のためには、症状が軽い初期の段階でPAHを疑い、診断と治療につなげることが重要となります。

PAH早期発見のための
かかりつけ医の役割

  • PAHは希少難治性疾患であるため、専門的な診断や治療ができる施設は限られています。そのため、PAHが疑われる患者さんが最初に受診する施設は、かかりつけ医の先生方になります。かかりつけ医の先生方がPAHを疑った段階で専門施設へ紹介いただけると、早い診断と治療が可能になります。診断のための詳しい検査は専門施設で行いますので、かかりつけ医の先生方には、まずは、日常診療にPAHが潜んでいることをご理解いただき、また、PAHが疑われる患者さんは、迷うことなく近隣の専門施設へ紹介していただきたいと考えています。

早期の紹介により
平均肺動脈圧が正常化した症例

    • 20歳台の女性
    • 息切れなどの自覚症状があり、近隣のクリニックを受診

かかりつけ医の先生から早期に紹介されたことにより平均肺動脈圧(mPAP)が正常化した症例を紹介します。
20歳台の女性で、息切れなどの自覚症状があり、近隣のクリニックを受診しました。クリニックの先生が基幹病院に紹介し、そこで肺高血圧症と診断されました。その後、精査と治療目的で当院に紹介され、当院で特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)と診断し、薬物療法を開始しました。
治療開始時のmPAPは48mmHg、心係数(CI)は1.7L/min/m2、肺血管抵抗(PVR)は15WUと重症でした。そのため、初期から静注薬のエポプロステノール30ng/kg/min、内服薬のタダラフィル40mg、ボセンタン250mgの3剤併用療法を行いました。経過中に、静注薬は内服薬のウプトラビ®に切り替え、3.2mg/dayまで増量しました。その結果、5年後のmPAPは15mmHg、CIは3.6L/min/m2、PVRは1.2WUといずれも正常値まで改善しました。
現在、この患者さんは症状がほとんどなく、生活されています。

※臨床症例の一部を紹介するもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

PAHを疑う症状や
問診のポイント

PHの主な症状は右心不全が原因で起こります。最も多い症状は労作時の息切れで、約8割の患者さんが経験するとされています。また、進行すると、全身倦怠感、失神、胸痛、動悸、下肢の浮腫などもみられることがあります。
この労作時の息切れは、PHを疑うポイントになります。労作時の息切れをみつけるためには問診が重要で、日常生活の動作が、「過去と比較してどの程度変化したか」を聞き取ることが有用です。たとえば、「階段での上りは、去年と比べて同じようにできますか?」「スーパーまで買い物に行くのに、去年と比べて同じようにできますか?」などのようにお聞きするとよいでしょう。

かかりつけ医の先生方に
実施していただきたい
PAHを疑う検査

労作時の息切れなどのPHを疑う臨床症状がある場合は、心電図やX線、心エコーなどの検査を実施することも、PHを疑う上で有用です。
心電図は心筋梗塞などの他の心疾患とPHを鑑別することができます。PH症例の心電図では、右軸偏位、R波の増高やST低下などの右房拡大と右心室の圧上昇に伴う所見が認められます。
胸部X線上の異常所見としては、肺動脈主幹部の拡張に伴う左第2弓の突出などが認められます。
これらの所見が認められる場合は、近隣の専門施設へご紹介ください。専門施設では、心エコー検査に続いて右心カテーテル検査などを行い、PHの確定診断や分類、重症度などを評価し、治療方針を決定します。

かかりつけ医の先生方へメッセージ

PAHをはじめとするPHを疑う臨床症状や検査所見があれば、迷うことなく早めに近隣の専門施設へご紹介ください。PHは、診断が難しい疾患ですので、先生方や患者さんの負担を軽減する意味でも、詳細な検査などは専門施設で早期に実施することが望ましいです。

現在、先生方が診ておられる患者さんのなかで、原因不明の労作時息切れを訴える患者さんはいらっしゃいますか。近年PAH治療法が進歩し、PAHは早期に診断し、早期に治療介入すれば、良好な予後が見込めるようになっています。PAHを含むPHが疑われる患者さんがいらっしゃいましたら、遠慮なく近隣の専門施設へ紹介してください。

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