第2回慢性血栓塞栓性肺高血圧症
(CTEPH)診療に
おける
かかりつけ医の役割
ご監修
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国立循環器病研究センター
心臓血管内科部門 肺循環科医長 大郷 剛 先生
今回は、大郷 剛先生(国立循環器病研究センター 心臓血管内科部門
肺循環科 医長)に、第4群に分類される慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)診療における、かかりつけ医の先生方の役割について
ご解説いただきます。
肺高血圧症の分類
肺高血圧症(PH)とは、肺動脈圧が高くなることで、心臓と肺の機能障害をもたらす予後不良な進行性の疾患群です。
PHは、その原因ごとに大きく5つに分類されており、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は第4群に分類されます。
CTEPHは、不完全な血栓溶解のために残存した血栓が器質化し、肺動脈の狭窄や閉塞を起こした結果、肺血管抵抗が上昇してPHを呈します。
CTEPHの予後
CTEPHの5年生存率は、平均肺動脈圧(mPAP)が30mmHgを超える例で40%程度、50mmHgを超える例で10%と報告され、mPAPが高いほど予後不良な疾患であることがわかり、mPAPを下げることが重要と考えられます。
CTEPHの早期診断・早期治療の重要性
これらの治療介入を早期に行うと、生命予後だけでなく、息切れなどの症状の改善が期待されます。CTEPHは、生命予後とQOLの改善のためにも、早期に診断して治療につなげることが非常に重要となります。
CTEPHを疑う症状や問診のポイント
PHは共通して労作時の息切れが最も多くみられ、進行すると、全身倦怠感、失神、胸痛、動悸、下肢の浮腫などがみられることがあります。
PHのなかでも、CTEPHでは低酸素血症が認められやすいという特徴があります。これは器質化した血栓により肺動脈が狭窄・閉塞し、肺の換気と血流が不均衡になるためです。よって、パルスオキシメーターで酸素飽和度(SpO2)を確認していただくことも、CTEPHを疑う有用な手段のひとつです。
かかりつけ医の先生方に実施していただきたい
CTEPHを疑う検査
労作時の息切れなどのPHを疑う臨床症状があった場合は、心電図や胸部X線検査を実施していただきたいと思います。
心電図は心筋梗塞などの他の心疾患とPHを鑑別することができます。PH症例の心電図では、右軸偏位、R波の増高やST低下などの右房拡大と右心室の圧上昇に伴う所見が認められます。
胸部X線画像上の異常所見としては、肺動脈主幹部の拡張に伴う左第2弓の突出などが認められます。
これらの所見が認められる場合は、近隣の専門施設へご紹介ください。専門施設では、心エコー検査などを行い、PHの確定診断や分類、重症度などを評価し、治療方針を決定します。
CTEPHが潜在しやすい疾患
CTEPHは、「血栓塞栓性」と名称に入っているように、血栓が関係している疾患です。急性例の肺血栓塞栓症の3.8%が慢性化したとの報告1)がありますので、急性肺塞栓症患者さんでは、CTEPHへの移行を念頭に置くことが重要です。急性肺塞栓症の要因のひとつには深部静脈血栓症がありますので、深部静脈血栓症患者さんにも注意する必要があります。
一方、急性肺塞栓症を介さずにCTEPHを発症する方も多くいらっしゃいます。この原因は明らかとなっていないのですが、特徴としては、日本では女性が男性の2倍以上であり、加齢とともに発症は増え、70歳代が発症のピークになっています2)。
- 1)Pengo V et al. N Engl J Med, 2004;350:2257-64.
- 2)難病情報センターホームページ(2022年6月現在)から引用
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