急性肺血栓塞栓症で気をつけたい
慢性血栓塞栓の病態
国立循環器病研究センターの青木竜男先生と、名古屋大学医学部附属病院の足立史郎先生に、
「急性肺血栓塞栓症で気をつけたい慢性血栓塞栓の病態」というテーマで対談していただきました。
急性肺血栓塞栓症(APTE)から慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)への進展などについてお話しいただきました。
心臓血管内科部門 肺循環科・中央支援部門
心血管リハビリテーション科
循環器内科 病院助教
Points
日本における
APTEの発症数
年間16,000人1)
75%のAPTE患者で
3ヵ月後に症状が残存2)
肺塞栓後症候群の概念
APTEから
CTEPHへの進展
3-5%3,4)
QOLの大きな改善が得られる疾患である。
早期発見のための推奨事項や知見を議論した。
慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者数
増加の要因
疾患認知度の上昇
国内の慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)患者数は年々増加しており5)、その要因として疾患認知度が上昇していること、また、CTEPHに使用できる肺血管拡張薬の種類が増え、治療の選択肢が増えたことがあると思います。
私も同様に、疾患認知度が上昇していることが大きく寄与していると思います。CTEPHという疾患を詳しく知らなくても、疾患を認知し、スクリーニング方法だけでも知ってもらうことが専門医への紹介につながります。
東海地区では、急性肺血栓塞栓症(APTE)をフォローアップすることの重要性が浸透してきており、ここ数年は血管リモデリングが少ない早期のCTEPHの紹介が増加しています。
APTEからCTEPHに進展するという意識がなければフォローが不十分となり、かなり進んだ状態で診断されるケースがあります。
CTEPHのスクリーニングには息切れの確認が重要ですが、患者さんが息切れを年齢によるものと思い込み自ら医師に訴えないため、診断が遅れることがあります。息切れに関しては、なるべく具体的に生活に踏み込んだ問診が有用で、例えば同年代と同じペースで歩行できるか、階段を避けていないか、前屈みになる姿勢でつらくなることはないかなどです。しかし、医師が息切れを把握してもCTEPHや肺高血圧症(PH)が診断の候補に挙がらない、あるいは診断できても紹介をためらうこともあるようで、PHを疑ったらその時点で早めに紹介してもらいたいと思います。
息切れに関する問診例
- 同年代と同じペースで歩行できますか?
- 階段を避けていませんか?
- 前屈みになる姿勢でつらくなることはありませんか?
息切れをはじめとするPHの自覚症状は非特異的であるため、CTEPHという疾患を認知していなければ、鑑別候補としてたどり着くのは困難かもしれませんね。
急性肺血栓塞栓症における
慢性血栓塞栓性肺高血圧症の潜在
日常診療において、APTE患者のなかにCTEPHが潜在している可能性があります。
40歳代の男性で、息切れ、前失神症状がありましたが、近医での検査では異常がみられませんでした(図1)。6ヵ月後に呼吸困難、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)低値がみられCT検査によりAPTEと診断され抗凝固療法を開始、さらに心エコー検査で両心房内に腫瘤を認めたため、当院紹介となりました。CT検査所見や心エコー所見によりAPTEのIntermediate high riskと考えられました。通常は内科的治療で対応できますが、経食道心エコー検査で卵円孔に入り込む大きな血栓が認められ、外科手術の適応となりました。
さらに術中の目視により複数の慢性病変の存在が明らかとなり、同時に肺動脈内膜摘除術(PEA)も施行しました。本症例はもともとあった慢性病変にAPTEを併発したAcute on chronic PE症例と考えられます。Acute on chronic PEはCT検査だけでは発見が困難であり、そもそも概念が浸透していないため認知度を上げる必要があります。
APTEのIntermediate high riskの診断は右心機能を評価しますが、急性発症の肺塞栓のみで右心機能障害や脳性ナトリウム利尿ペプチド高値がみられることは少なく、APTEでこれらが認められた場合はAcute on chronic PEと考えてもよいと思います。
急性肺血栓塞栓症から
慢性血栓塞栓性肺高血圧症への進展
APTEからCTEPHへの進展は、文献的には3-5%程度とされています3,4)。しかし、近年の研究では、APTE患者の75%に3ヵ月時点で症状が残っており、それにもかかわらず肺換気・血流シンチグラフィ検査が実施されたのは5.6%であったことが報告されています(図2)。私は、APTEからCTEPHへの進展は過小評価されているのではないかと考えています。
APTEからCTEPHへの進展は、急性期の抗凝固療法が適切に実施できているかが要因のひとつになります。抗凝固療法が不適切であれば血栓が残存して慢性に進展する可能性があります。また、肺動脈の炎症や血管リモデリングを起こしやすい遺伝的な背景因子や、静脈弁異常も慢性期への進展に関与していると考えられます。
Acute on chronic PEからCTEPHへの進展は、もともと無症候性の器質化血栓が存在し、ある程度慢性の要素があるところに新鮮血栓が発現し、器質化血栓が増加することでCTEPHに至るものと考えています(図3)。APTE治療後もPHが残ったまましばらく経過し、PHの持続による心拍出量の低下により自覚症状が発現し始めた時点で、CTEPHと診断されるケースが多いと思いますが、抗凝固療法4-6週で定常状態になるため、その時点でPHがあればCTEPHの可能性が高いことを考慮すべきです4)。
- APTE患者ではCTEPHへの進展を念頭に置く。
- 具体的な生活行動をもとに労作時息切れを問診する。
- 慢性化した状態に新鮮血栓を併発するAcute on chronic PEという病態がある。
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