Dravet症候群 疾患と診断
Dravet症候群について3,4)
- 3)難病情報センター Dravet症候群:指定難病140 診断・治療指針(医療従事者向け)(2024年3月現在)
- 4)日本小児神経学会監修 小児急性脳症診療ガイドライン改訂ワーキンググループ編集 小児急性脳症診療ガイドライン2023第8章 2023 診断と治療社
Dravet症候群は、全般強直間代発作や半身けいれん等を繰り返し、①発熱誘発けいれん、②てんかん重積を伴いやすい、③薬物治療に抵抗性、という特徴を持つ乳児期発症の発達性てんかん性脳症です。1歳未満に発症することが多く、1歳を過ぎると発達遅滞や運動失調が出現します。
かつては乳児重症ミオクロニーてんかんと呼ばれていましたが、1989年にDravet症候群に改名されました。
Dravet症候群患者の80%にSCN1A遺伝子異常が認められており、主な*病因と考えられていますが、Dravet症候群以外のてんかんでもSCN1A遺伝子変異が関与していることが知られているため、診断はあくまで臨床症状に基づいて行う必要があります。
*他に、SCN1B、SCN2A、GABRG2遺伝子異常の報告もあります。
Dravet症候群の診断について
Dravet症候群は症状や検査所見等から診断されます。
Dravet症候群の診断基準5)
5)厚生労働省 概要・診断基準等及び臨床調査個人票 140 Dravet症候群(2024年3月現在)
Definite(確定診断例)を対象とする。
A.症状
- 1.全身又は半身けいれん発作。
- 2.焦点発作、ミオクロニー発作、非定型欠神発作、意識混濁発作。
- 3.発熱や入浴による誘発。
- 4.光や図形に対する過敏性の存在。
- 5.けいれん重積ないしはけいれん発作の群発を起こしやすい。
B.検査所見
- 1.血液・生化学的検査:特異的所見なし。
- 2.病理検査:特異的所見なし。
- 3.画像検査:乳児期は正常だが、幼児期以後は非特異的大脳萎縮がみられる。海馬萎縮を伴うこともある。
- 4.生理学的検査:脳波では背景活動の徐波化、広汎性多棘徐波、多焦点性棘波が年齢に伴って消長する。
- 5.運動・高次脳機能検査:幼児期以後に中等度以上の知的障がいが顕在化することが多く、神経学的にも失調や下肢の痙性を伴う。広汎性発達障がい(自閉スペクトラム症等)がみられることもある。
C.鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
複雑型熱性けいれん、全般てんかん熱性けいれんプラス、焦点てんかん、乳児ミオクロニーてんかん、Lennox-Gastaut症候群、ミオクロニー脱力発作を伴うてんかん、PCDH19群発てんかん。
D.遺伝学的検査
SCN1A遺伝子の変異等の検索をすすめる(病的な遺伝子変異を75%に、微小欠失を数%に認める)。SCN1A遺伝子に変異等が認められない場合は、さらにSCN1B、SCN2A、GABRG2遺伝子も検索する。
<診断のカテゴリー>
1歳未満でA1を発症し、A2~5の特徴を1つ以上有する場合は本症候群を疑い、遺伝学的検査をもってDefinite(確定診断例)とする。ただし、1歳未満でA1を発症し、A2~5の特徴を2つ以上有し、かつB3~5のうち1つ以上を有する場合は、遺伝学的検査が陰性でもDefinite(確定診断例)とする。
(監修医一部改変)
てんかん発症に関連する疾患がなく、生後1ヵ月から20ヵ月のお子さんに半身けいれんや全身けいれんが2回以上あり、発熱・ワクチン接種・入浴などによる発作誘発や5分以上続く発作がみられる場合は、Dravet症候群の可能性も考えられ、遺伝学的検査を実施することで、早期診断につながることがあります。
参考:1歳未満におけるDravet症候群のスクリーニング項目6)
6)Hattori J, et al., Epilepsia. 2008; 49(4): 626-33
危険因子 | 点数 |
---|---|
発症月齢が7ヵ月以下 | 2 |
発作回数5回以上 | 3 |
半身けいれん | 3 |
焦点発作 | 1 |
ミオクロニー発作(ピクン) | 1 |
遷延性発作(10分以上) | 3 |
入浴誘発発作 | 2 |
6点以上の場合は感度97.8%、特異度94.0%でDravet症候群の可能性が考えられると報告されており、SCN1A遺伝子検査の施行が推奨されます。
A screening test for the prediction of Dravet syndrome before one year of age
Hattori J. et al., Epilepsia. 2008; 49(4): 626-33
Summary
Purpose: Our aim was to develop a screening test to predict Dravet syndrome before the first birthday based on the clinical characteristics of infants and the SCN1A mutation analysis.
Methods: Ninety-six patients who experienced febrile seizures before the age of one were enrolled. The patients were divided into two groups—the Dravet syndrome group (n = 46) and the non-Dravet syndrome group (n = 50). We compared the clinical characteristics before one year of age of the two groups. We analyzed all coding exons of the SCN1A gene by the direct sequencing method. Scores from 0 to 3 were assigned to each risk factor based on the odds ratio and p-value.
Results: An age of onset of febrile seizure ≤ 7 months, a total number of seizures ≥ 5, and prolonged seizures lasting more than 10 min. were regarded as significant risk factors for Dravet syndrome. Other factors highly predictive of this syndrome were hemiconvulsions, partial seizures, myoclonic seizures, and hot water–induced seizures. A total clinical score of six or above was the cutoff value indicating a high risk of Dravet syndrome. SCN1A missense and truncated mutations were detected significantly more often in the Dravet syndrome group than in the non-Dravet syndrome group.
Discussion: This simple screening test was designed to be used by general pediatricians. It could help to predict Dravet syndrome before one year of age. If the sum of the clinical risk score is ≥ 6, then the performance of an SCN1A mutation analysis is recommended.
SCN1A遺伝子異常3,4,7)
- 3)難病情報センター Dravet症候群:指定難病140 診断・治療指針(医療従事者向け)(2024年3月現在)
- 4)日本小児神経学会監修 小児急性脳症診療ガイドライン改訂ワーキンググループ編集 小児急性脳症診療ガイドライン2023第8章 2023 診断と治療社
- 7)石井敦士, 医学のあゆみ. 2015; 253(7): 561-7
SCN1A遺伝子とは、電位依存性ナトリウムチャネル(Nav1.1)αサブユニット1をコードする遺伝子のことで、Na+チャネルのNa+を通す孔(ポア)を形作るα1サブユニットを作るためのタンパク合成情報を持っています。
Nav1.1は、興奮性グルタミン酸神経系に比べて抑制性GABA神経系で優勢に発現しています。
そのため、SCN1A遺伝子変異がある患者さんでは、Nav1.1の機能低下(Na+の通過障害)が生じて、抑制性シグナルの働きが低下し、てんかん発作が起こると考えられています8)。
Dravet症候群患者に対して、Na+チャネルを強く阻害する抗てんかん薬を投与すると、発作悪化を招くことが多いのは、SCN1A遺伝子に変異によるNav1.1の機能低下が増強されるためと考えられています。
8)Oakley JC, et al., Epilepsia. 2011; 52: 59-61
Nav1.1の模式図
- Dravet症候群の遺伝学的検査 -
Dravet症候群は遺伝子異常の同定が確定診断につながることもあり、臨床症状による診断よりも早い時期から治療方針の設定や遺伝カウンセリングに活かせると考えられています9)。ただし、遺伝子異常が認められた人がすべてDravet症候群の患者であるとは限りません。
なお、Dravet症候群の遺伝学的検査は保険収載されており、臨床症状や他の検査等では診断がつかない場合に、別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生(支)局長に届け出た保険医療機関において検査が行われる場合に算定できます(令和5年度診療報酬点数表より)。
9)Hirose S, et al., Epilepsia. 2013; 54(5): 946-52
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適正使用ガイド
Dravet症候群患者及びLennox-Gastaut症候群患者における「フィンテプラ®」治療フロー
※フィンテプラ®は、他の抗てんかん薬で十分な効果が認められないDravet症候群患者及びLennox-Gastaut症候群患者におけるてんかん発作に対する抗てんかん薬との併用療法薬です。
フィンテプラ®の使用に際しては、
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フィンテプラ®の投与開始
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臨床試験の概要