開発の経緯
ジャイパーカ(一般名:ピルトブルチニブ)は、Loxo Oncology, Inc. が開発を始め、イーライリリー・アンド・カンパニーに開発が移管されたブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)に対して可逆的な非共有結合型の阻害作用を有する1,2)経口投与可能なBTK阻害剤です。
BTKは、B細胞抗原受容体及びサイトカイン受容体を介したシグナル伝達に関わる蛋白質であり、B細胞内でのBTKシグナルは、B細胞の増殖、遊走、走化性及び接着に必要な伝達経路を活性化します3,4)。
可逆的非共有結合型BTK阻害剤であるピルトブルチニブは、BTKのCys481(C481)に共有結合する既存のBTK阻害剤とは異なり、ATP結合ポケット内の複数のアミノ酸に非共有結合することでBTKのキナーゼ活性を阻害し、B細胞性腫瘍の増殖を抑制すると考えられます1,2)。
マントル細胞リンパ腫(MCL)はB細胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の1つであり、リンパ節濾胞のマントル層を構成するB細胞と同じ細胞表面形質を有する腫瘍です5,6)。MCLは、再発を繰り返す難治性の予後不良な疾患です5)。
ピルトブルチニブは、2019年にBTK阻害剤の前治療歴がある再発又は難治性のMCL及び慢性リンパ性白血病(CLL)/小リンパ球性リンパ腫(SLL)を含むB細胞性NHL注)を対象に安全性と有効性を検討するための、国際共同第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験(用量探索試験を含む:BRUIN-18001試験)を開始しました。BRUIN-18001試験は検証的臨床試験ではありませんが、本試験の結果、2023年1月に米国で「BTK阻害剤を含む2種類以上の治療歴を有する成人の再発又は難治性のマントル細胞リンパ腫」を効能又は効果として迅速承認されました。また、本邦においてもBRUIN-18001試験において有効性及び安全性が確認された結果、2024年6月に「他のBTK阻害剤に抵抗性又は不耐容の再発又は難治性のマントル細胞リンパ腫」の効能又は効果で承認されました。
なお、本承認を裏付ける解析は、BRUIN-18001試験の3つのデータカットオフ日の中間データに基づいています。
注)本邦において、「他のBTK阻害剤に抵抗性又は不耐容の再発又は難治性のMCL」以外のB細胞性NHLはジャイパーカの承認外です。
- 1)社内資料:ピルトブルチニブの薬理試験
- 2)Gomez EB, et al. Blood. 2023; 142: 62-72.
[利益相反:本研究はイーライリリー社の資金により行われ、著者は同社の社員である。] - 3)Weber ANR, et al. Front Immunol. 2017; 8: 1454.
- 4)Ponader S, et al. J Clin Oncol. 2014; 32: 1830-1839.
- 5)Rai S, et al. Adv Ther. 2022; 39: 4792-4807.
[利益相反:本研究はイーライリリーアンドカンパニーの支援により行われ、著者のうち5名は同社又は日本イーライリリー社の社員である。] - 6)日本血液学会 編. 造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版; 金原出版; 2023, p266-269.
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