開発の経緯
ビキセオス[一般名 注射用ダウノルビシン塩酸塩・シタラビン リポソーム製剤]は、急性骨髄性白血病(AML)の標準治療薬であるシタラビン(AraC)とダウノルビシン(DNR)を5:1のモル比で含有するリポソーム製剤である。AraC及びDNRは血漿中で99%以上がリポソームに封入された状態で骨髄に移行するため、5:1のモル比が長時間維持され、非リポソーム状態のAraCとDNRを用いた7+3療法(AraCとDNRの併用療法)よりも少ない累積投与量で有効性が期待できる。またビキセオスは、エンドサイトーシス等により白血病細胞に取り込まれた後、AraC及びDNRを放出することで、白血病細胞の増殖を抑制すると考えられている。
ビキセオスの臨床開発は海外にて2006年より進行性造血器腫瘍患者を対象とした第Ⅰ相試験(CLTR0305-101試験)が開始され、続いて未治療のAML患者を対象とした海外第Ⅱ相試験(CLTR0308-204試験)、初回寛解後再発AML患者を対象とした海外第Ⅱ相試験(CLTR0308-205試験)が実施され、ビキセオスのAMLにおける有効性及び安全性が検討された。
2012年には未治療の高リスクAML患者※を対象とした海外第Ⅲ相試験(CLTR0310-301試験)が開始され、標準治療である7+3療法を対照として、有効性及び安全性が検討された。この結果をもとにビキセオスの創薬会社であるJazz Pharmaceuticals社(以下、Jazz社)は、米国では2017年8月、欧州では2018年8月に「成人の新規に診断された治療関連AML(t-AML)又は骨髄異形成関連変化を伴うAML(AML-MRC)」に対する承認を取得した。
また、Jazz社はビキセオスの小児開発に関して、成人及び小児対象の臨床試験成績(CPX-MA-1201試験及びAAML1421試験)に加え、成人及び小児の薬物動態データを用いた解析結果をもとに、米国にて2021年3月に「成人及び1歳以上の小児の新規に診断されたt-AML又はAML-MRC」に対する承認を取得した。
海外での承認状況を受け、2019年より日本人の未治療の高リスクAML患者を対象とした薬物動態、安全性及び有効性を検討する国内第Ⅰ/Ⅱ相試験(NS87-P1-2試験)が実施された。これらの試験データに基づき、「高リスク急性骨髄性白血病」※の効能又は効果にて2024年3月に承認を取得した。
- ※ 高リスクAML患者の定義は、WHO分類(2008年版又は2017年版)におけるAMLのうち以下のいずれかに該当する患者とする
- ・ 治療関連AML
- ・ 骨髄異形成症候群(MDS)の既往があるAML(以下の①~③のいずれかに該当する患者) ①過去にMDSと診断されたことがある患者 ②1系統以上に10%以上の異形成、又は10%以上の巨核球系異形成がある患者 ③いずれの系統でも異形成が10%未満であるが、MDSに特徴的なクローナルな細胞遺伝学的異常を有する患者
- ・ 骨髄異形成関連変化を伴うAML(AML-MRC)と診断できる細胞遺伝学的異常を有するAML
- ・ 慢性骨髄単球性白血病(CMML)の既往があるAML
なお、海外第Ⅲ相試験(CLTR0310-301試験)及び国内第Ⅰ/Ⅱ相試験(NS87-P1-2試験)の選択基準は、高リスクAML患者の定義と表現は異なるが同義である。
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