1. AraCとDNRの最適なモル比の検討
(1)各種細胞株における検討(in vitro )
白血病細胞株7種類と固形がん細胞株8種類に対してAraCとDNRを各モル比(1:10、1:5、1:1、5:1、10:1)で併用し細胞増殖抑制試験を実施した。 15種類の細胞株のうち、75%有効濃度において相乗作用を示した細胞株の割合は、AraCとDNRのモル比が1:10又は1:5で26.7%、1:1で33.3%、5:1で53.3%、10:1で46.7%であり、AraCとDNRのモル比5:1において、相乗的な細胞増殖抑制作用を示した株の割合が最も多かった。
相乗作用が認められた細胞株の割合
<試験方法>
白血病細胞株7種類(CCRF-CEM、HL-60、KBM-3、L1210、MOLT-4、P388、WEHI-3B)と固形がん細胞株8種類(A253、BXPC-3、COLON-26、HCT-116、HT-29、IGROV-1、LS-180、SW620)に対し、AraCとDNRを各モル比(1:10、1:5、1:1、5:1、10:1)で併用し、細胞増殖抑制試験を実施した。合計15種類の細胞株中、75%有効濃度において相乗作用を示した細胞株の割合を算出した。
(2)P388細胞株移植モデルマウスにおける検討(マウス)
P388細胞株を腹腔内に移植した雌性BDF-1マウスを用いて、AraCとDNRを併用する際の最適なモル比を検討した。 NS-87投与群はモル比3:1又は1:1のリポソーム製剤投与群と比較して生存延長作用を示し、10:4mg/kg投与群の生存期間中央値(MST)は63日以上、%ILSは563%以上、移植後63日目の生存数は6例中5例であった。モル比11.6:1のリポソーム製剤の15:3mg/kg投与群のMSTは63日以上、%ILSは563%以上であり、NS-87の10:4mg/kg投与群と同程度の生存延長作用を示した。
NS-87及び種々のモル比のリポソーム製剤を投与したP388細胞株移植モデルマウスの生存率
NS-87:AraC及びDNRを含有するリポソーム製剤 矢印は生理食塩液又は薬剤の投与日を示す
<試験方法>
P388細胞株(マウスリンパ球性白血病細胞株)を腹腔内に移植した雌性BDF-1マウスに対し、生理食塩液(対照)又はNS-87(2:0.8mg/kg、10:4mg/kg)、AraCとDNRのモル比が異なる3種のリポソーム製剤(製剤A[11.6:1]、製剤B[3:1]、製剤C[1:1])をそれぞれ3用量ずつ、移植後1、4、7日目に静脈内投与した。 移植後63日目まで観察し、生存数、生存期間中央値(MST)、生存期間延長率(%ILS)を算出し比較した。
2. 生存延長作用
(1)NS-87と非リポソーム型AraC・DNR混合物との比較
1)P388細胞株移植モデルマウスにおける生存延長作用(マウス)
P388細胞株移植モデルマウスを用いて、NS-87と非リポソーム型AraC・DNR混合物又は非リポソーム型AraC製剤との薬効を比較した。 NS-87投与群は非リポソーム型AraC・DNR混合物と比較して生存延長作用を示し、12.5:5mg/kg投与群のMSTは67日以上、%ILSは857%以上、移植後67日目の生存数は5例中5例であった。非リポソーム型AraC・DNR混合物投与群は、いずれの投与量においてもNS-87投与群に比べMSTは短く、%ILSは小さかった。また、移植後67日目まで生存した個体はいなかった。
NS-87、非リポソーム型AraC・DNR混合物又は非リポソーム型AraC製剤を投与したP388細胞株移植モデルマウスの生存率
<試験方法>
P388細胞株(マウスリンパ球性白血病細胞株)を腹腔内に移植した雌性BDF-1マウスに対し、生理食塩液(対照)又はNS-87(6.25:2.5mg/kg、12.5:5mg/kg)、非リポソーム型AraC・DNR混合物(12.5:5mg/kg、18.5:7.5mg/kg)、非リポソーム型AraC製剤(1,000mg/kg)を移植後1、4、7日目に静脈内投与した。移植後67日目まで観察し、生存数、MST、%ILSを算出し比較した。
2)WEHI-3B細胞株移植モデルマウスにおける生存延長作用(マウス)
WEHI-3B細胞株を腹腔内に移植したマウスを用いて、NS-87と非リポソーム型AraC・DNR混合物との薬効を比較した。 NS-87投与群は非リポソーム型AraC・DNR混合物と比較して生存延長作用を示し、12:5.3mg/kg投与群のMSTは82日以上、%ILSは413%以上、移植後82日目の生存数は6例中6例であった。NS-87と等用量の非リポソーム型AraC・DNR混合物12:5.3mg/kg投与群のMSTは30.5日、%ILSは91%で、移植後82日目まで生存した個体はいなかった。非リポソーム型AraC・DNR混合物25:11mg/kg投与群のMSTは35.5日、%ILSは122%であり、600:9mg/kg投与群のMSTは49.5日、%ILSは209%であったが、NS-87投与群と比較し顕著な体重減少を含む毒性所見が認められた。
NS-87及び非リポソーム型AraC・DNR混合物を投与したWEHI-3B細胞株移植モデルマウスにおける生存率
<試験方法>
WEHI-3B細胞株(マウス骨髄単球性白血病細胞株)を腹腔内に移植した雌性CD-1ヌードマウスに対し、生理食塩液(対照)又はNS-87(6:2.64mg/kg、10:4.4mg/kg、12:5.3mg/kg)、非リポソーム型AraC・DNR混合物(12:5.3mg/kg、25:11mg/kg、300:4.5mg/kg、600:9mg/kg)を移植後1、4、7日目に静脈内投与した。移植後82日目まで観察し、生存数、MST、%ILSを算出し比較した。
(2)NS-87とAraC又はDNRの単剤リポソームとの比較
1)P388細胞株移植モデルマウスにおける生存延長作用(薬剤投与:移植後4、7、10日目)(マウス)
本試験は薬効をより厳正に評価するため、P388細胞株移植モデルマウスを用いた他の試験と比べて、薬剤投与開始時期を3日間ずつ遅らせ、移植後4、7、10日目に静脈内投与してNS-87とAraC又はDNRの単剤リポソームとの薬効を比較した。 NS-87投与群はAraC又はDNRの単剤リポソームと比較して生存延長作用を示し、12:5.3mg/kg投与群のMSTは64日以上、%ILSは814%以上、移植後64日目の生存数は6例中5例であった。 AraCの単剤リポソームの最大投与量15mg/kg投与群のMSTは19.5日、%ILSは179%、DNRの単剤リポソームの最大投与量10mg/kg投与群のMSTは29.5日、%ILSは321%であり、64日目まで生存した個体はいなかった。
NS-87及びAraC又はDNRの単剤リポソームを投与したP388細胞株移植モデルマウスにおける生存率
<試験方法>
P388細胞株(マウスリンパ球性白血病細胞株)を腹腔内に移植した雌性BDF-1マウスに対し、生理食塩液(対照)又はNS-87(6:2.64mg/kg、10:4.4mg/kg、12:5.3mg/kg)、AraCの単剤リポソーム(10、15mg/kg)、DNRの単剤リポソーム(4.4、10mg/kg)を移植後4、7、10日目に静脈内投与した。移植後64日目まで観察し、生存数、MST、%ILSを算出し比較した。
2)WEHI-3B細胞株移植モデルマウスにおける生存延長作用(マウス)
WEHI-3B細胞株移植モデルマウスを用いて、NS-87とAraC又はDNRの単剤リポソームとの薬効を比較した。 NS-87投与群はAraC又はDNRの単剤リポソームと比較して生存延長作用を示し、12:5.3mg/kg投与群のMSTは102日以上、%ILSは343%以上、移植後102日目の生存数は6例中5例であった。 NS-87の12:5.3mg/kg投与群と等用量のAraCの単剤リポソーム12mg/kg投与群及びDNRの単剤リポソーム5.3mg/kg投与群のMSTはそれぞれ26.0日、38.5日、%ILSはそれぞれ13.0%、67.0%であり、移植後102日目までにおける生存数は、それぞれ6例中0例、6例中2例であった。
NS-87及びAraC又はDNRの単剤リポソームを投与したWEHI-3B細胞株移植モデルマウスにおける生存率
<試験方法>
WEHI-3B細胞株(マウス骨髄単球性白血病細胞株)を腹腔内に移植した雌性CD-1ヌードマウスに対し、生理食塩液(対照)又はNS-87(6:2.64mg/kg、10:4.4mg/kg、12:5.3mg/kg)、AraCの単剤リポソーム(12、20mg/kg)、DNRの単剤リポソーム(5.3、12mg/kg)を移植後1、4、7日目に静脈内投与した。移植後102日目まで観察し、生存数、MST、%ILSを算出し比較した。
3. 骨髄内分布
(1)CCRF-CEM細胞株移植マウスにおけるNS-87の骨髄への蓄積(マウス)
CCRF-CEM細胞株(ヒト急性リンパ芽球性白血病細胞株)を移植したモデルマウスにおいて、ほぼ全ての測定時点で、NS-87投与群は非リポソーム型AraC・DNR混合物投与群に比べて骨髄中AraC濃度及びDNR濃度が上回っており、骨髄中のAraCとDNRのモル比は24時間後まで5:1~2:1付近を維持した。
薬剤投与後2、4、8、24時間後のマウス骨髄中濃度
AraC:DNRのモル比
<試験方法>
CCRF-CEM細胞株(ヒト急性リンパ芽球性白血病細胞株)を尾静脈内に移植した雌性Rag2-Mマウスに対し、移植3週間後にNS-87(10:4.4mg/kg)、非リポソーム型AraC・DNR混合物(300:4.5mg/kg)を3日ごとに3回静脈内投与した。薬物投与2、4、8、24時間後にマウス大腿骨から骨髄を採取し、骨髄中AraC濃度及びDNR濃度を高速液体クロマトグラフィーで測定した。また、AraC:DNRのモル比は大腿骨における薬物濃度から算出した。
(2)CCRF-CEM細胞株移植マウスの骨髄におけるNS-87の白血病細胞への取り込み(マウス)
CCRF-CEM細胞株(ヒト急性リンパ芽球性白血病細胞株)を移植したモデルマウスにおいて、CCRF-CEM細胞106 cellsあたりの取り込み量はAraCで24pmol、DNRで16pmol、正常骨髄細胞106 cellsあたりの取り込み量はAraCで2.6pmol、DNRで7.0pmolであり、CCRF-CEM細胞株ではマウス正常骨髄細胞に比べてAraCが9倍以上、DNRが2倍以上含有されていた。 また、106 cellsあたりのリポソーム脂質の取り込み量は、CCRF-CEM細胞で219pmol、正常骨髄細胞で117pmolであり、CCRF-CEM細胞株は正常骨髄細胞に比べて約2倍のリポソーム脂質を取り込んでいた。
<試験方法>
CCRF-CEM細胞株(ヒト急性リンパ芽球性白血病細胞株)を尾静脈内に移植した雌性Rag2-Mマウスに対し、移植4週間後に二重放射標識[[3 H]AraC及び[14 C]DPPC(リポソーム脂質:ジパルミトイルホスファリジルコリン)]したNS-87(10:4.4mg/kg)を単回静脈内投与した。薬物投与18時間後にマウス大腿骨から骨髄細胞を採取し、CCRF-CEM細胞株とマウス正常骨髄細胞に分離した。各細胞画分において、放射標識されたAraC濃度とリポソーム脂質濃度をシンチレーションカウンターで測定し、DNR濃度を高速液体クロマトグラフィーで測定した。
(3)NS-87の白血病細胞への取り込み機構(in vitro )
リポソーム脂質膜(DPPC)を標識したNS-87を用いてCCRF-CEM細胞株(ヒト急性リンパ芽球性白血病細胞株)及びK562細胞株(ヒト慢性骨髄性白血病細胞株)への取り込みを検討した。
① CCRF-CEM細胞株及びK562細胞株のいずれにおいても、DNRは添加後30分には核への移行が認められ、24時間まで継続した。リポソームの挙動を示すインドカルボシアニン色素(DiD)の青色蛍光は、NS-87添加後30分では細胞膜、核周辺、細胞質に点状に確認されたが(図1-A及びG)、24時間後には減少した(図1-B及びH)。
② 4℃の条件でNS-87又は非リポソーム型DNRをCCRF-CEM細胞株に添加したところ、非リポソーム型DNRはCCRF-CEM細胞株に取り込まれたが、NS-87に封入されているDNRは細胞に取り込まれなかった。
図1:CCRF-CEM細胞株及びK562細胞株へのDiD標識NS-87の取り込み
図2:4℃におけるNS-87及び非リポソーム型DNRの細胞内取り込み
<試験方法>
① CCRF-CEM細胞株(図1-A及びB)及びK562細胞株(図1-G及びH)にDiDでリポソーム脂質膜を標識したNS-87を添加し、30分後及び24時間後に蛍光共焦点顕微鏡でDiDの青色蛍光及びDNRの赤色自己蛍光を観察した。
② CCRF-CEM細胞株に100μMのDNRを含むNS-87(図2-A及びB)又は100μMの非リポソーム型DNR(図2-C及びD)を添加し、4℃で1時間インキュベーションした後、微分干渉顕微鏡にて細胞の形態を、蛍光共焦点顕微鏡にてDNRの赤色自己蛍光を観察した。