国際抗てんかん連盟(International League Against Epilepsy:ILAE)は、新生児期及び乳児期に発症するてんかん症候群の分類と定義について提案しています。
本ページでは、ILAEが発表した疾病分類におけるDravet症候群についてご紹介します。
Dravet症候群とは
■ Dravet症候群の概要
Dravet症候群は、生後1年以内の健常児に、遷延性、有熱性又は無熱性で、焦点間代発作(通常は片側間代)又は全般間代発作がみられる疾患です1)。ミオクロニー発作や非定型欠神発作等の他の発作型が1~4歳の間に出現する等、難治性の発作が認められます。
生後2年目から認知や行動の障害を示し1)、特徴的なかがみ歩行等の歩行異常は、小児期後期までに認められます2)。
臨床診断は、Na+チャネル遺伝子であるSCN1Aの病的バリアントを同定することで支持されます(80%以上の症例で認められます)3)。
■ 疫学
Dravet症候群は、10万出生あたり6.5人ほどが罹患します4-6)。
■ 臨床的背景
発作発症は通常生後3~9ヵ月で、平均及び中央値年齢は6ヵ月です1,7,8) 。2ヵ月未満又は15ヵ月以降に発症した場合は、診断を見直し、他疾患を除外するためのさらなる検査を検討するよう注意すべきです。
発作発症時の発達、神経学的所見は正常です7,9)。
歩行の開始は平均16〜18ヵ月とやや遅れ、不安定さがみられることがあります。頭囲は最初の数年間は正常です。
発作発症時に著しい発達遅滞や神経学的所見の異常、運動障害、小頭症等が認められる場合は、他の疾患の可能性が示唆されます。
必須基準 | 注意喚起基準 | 除外基準 | |
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発作 | 繰り返す焦点間代(片側間代)有熱性及び無熱性発作(しばしば発作ごとに左右側性が変化)、焦点起始両側強直間代発作あるいは全般間代発作 | 遷延性発作(10分以上)の既往がない 発作誘因となる発熱感受性の欠如 |
てんかん性スパズム 早期乳児SCN1A発達性てんかん性脳症 |
脳波 | 2歳以降に発作間欠期放電を伴わない正常背景活動 | ||
発症年齢 | 1〜20ヵ月 | 1〜2ヵ月又は15〜20ヵ月 | |
発症時の発達 | 発作発症時の発達遅滞 | ||
神経学的診察 | 局在性の神経学的所見(トッドの麻痺を除く) | ||
画像 | MRIで原因となる焦点性病変あり | ||
その他の検査: 遺伝子等 |
SCN1Aやその他の原因となる病的バリアントの欠如 | ||
疾患の経過 | 薬剤抵抗性てんかん 知的障害 |
Na+チャネル系薬剤の予防投与の有効性が高い | |
診断にMRIや発作時脳波は必要か? MRIは診断に必須ではないが 他の原因を除外するために強く推奨される。 発作時脳波は診断に必須ではない。 |
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症候群が進展中である可能性: 発熱を伴う長時間の片側発作又は両側強直間代発作を呈し、他に基礎疾患がない12ヵ月未満の小児ではDravet症候群の可能性を検討する必要がある。さらにけいれん発作(発熱を伴うことが多く遷延する場合や片側性の場合)があればより確定的なDravet症候群の診断が可能である。また、SCN1Aの病的バリアントがみつかれば、さらに診断が支持される。 |
|||
検査による確認困難な場合の症候群診断: 医療資源の限られる地域では脳波MRI遺伝学的検査をしなくても、他のすべての臨床的必須基準及び除外基準を満たし注意喚起基準のない児ではDravet症候群と診断しうる。 |
Zuberi SM, et al. Epilepsia. 2022; 63(6): 1349-1397.より改変
Dravet症候群の経過
■ 発作
発作は薬剤抵抗性で、生涯を通じて発現します。
てんかん重積状態は5歳以前に多いですが、以降も体調不良や発熱に伴って、出現することがあります7)。
青年期/早期成人期では、てんかん重積状態や非定型欠神発作はまれになります。発作は短時間のことが多く、さまざまな発作型(焦点意識減損発作、間代発作、全般強直間代発作、ミオクロニー発作、非定型欠神発作)がみられます。また、夜間に強直及び強直間代発作が出現し、優勢な発作型となることもあります10,11)。
■ 発達・運動障害
経過とともに発達の進みは遅くなり、発作発症後12~60ヵ月の間には発達遅滞が明らかとなると考えられます12,13)。
言葉の発達遅滞が主体であり、半数の患者さんは軽度から重度の知的障害を示します9,12)。また、多くの患者さんで運動障害を発症し、不注意や多動性を示す患者も認められます7,13,14)。
てんかん重積状態をきっかけに発達の退行がみられることもありますが、大半の患者さんでは、発達遅滞とそれに伴う知的障害がみられます12)。
経過とともに、大半の患者さんは軽微な錐体路徴候と歩行障害を発症し、通常は小児期後半から青年期までに、かがみ歩行へと進展します2)。
Dravet症候群にみられる発作の特徴
発症時に「焦点間代発作(体の片側に影響を及ぼす片側間代発作)」や「全般間代発作」が反復することが診断に必須となります。これらは、遷延性であることが多く、高頻度に発熱や環境温の上昇、予防接種によって誘発されます1,8)。
それまで正常だった乳児に、感染症や脳の構造病変がない状態で、生後12ヵ月以前に発熱(特に微熱)を伴う遷延性焦点間代(片側間代)発作がみられる場合、Dravet症候群が強く示唆されます7)。
1.5~5歳までに、以下のような追加の発作型も起こる可能性があります7,8)。

Zuberi SM, et al. Epilepsia. 2022; 63(6): 1349-1397.より作図
1.5~5歳までに、体調不良に加え、身体活動、環境温の変化、視覚的模様(まれ)、光刺激(患者の15%)、興奮等によって発作が誘発されることがあります7,15,16)。
主に睡眠時に群発する強直・強直間代発作は、4~5歳頃から出現し、成人期により顕著になります10,11,17)。
てんかん性スパズムはDravet症候群の除外基準となります。
発作は、一部のNa+チャネル阻害剤の使用により増悪することがあり、Dravet症候群の診断の手がかりとなることがあります18)。
Dravet症候群にみられるその他の特徴
■ 脳波
2歳までは正常で、通常は2歳以降に徐波化が認められます8,16,19)。
発作間欠期放電は、焦点性、多焦点性、全般性であり、2歳以降に出現します19)。また、睡眠時の群発発作を示す患者さんでは発作間欠期の前頭部放電がしばしばみられます17,19)。その他にも光突発反応は患者さんの15%にみられ、低年齢児でより高頻度となります19)。発作時記録は発作型によって異なります。
■ 神経学的所見
発作発症時のMRI所見は正常です20)。
経過とともに軽度の大脳、小脳の萎縮が進行することがあり、少数例では海馬硬化もみられることがあります20,21)。
■ 遺伝学的所見
遺伝学的検査は、全年齢で推奨されます。
SCN1Aの病的バリアントは80〜85%超の患者さんで認められ3)、大半がde novoでそのうち最大10%は、両親のうちどちらかがその変異を有するモザイクであると予測されており22)、遺伝カウンセリングが必要となる可能性があります。そのため、素因性熱性けいれんプラス(GEFS+)の家系では、家系内にDravet症候群が発症することがあります。SCN1Aの病的バリアントは、GEFS+や重篤な障害を伴う早期乳児SCN1A脳症等の他のてんかん症候群でも認められることがあります。
まれにGABRG2、GABRA1、STXBP1等の顕性病的バリアントが認められる場合もあります23)。
Dravet症候群の診断には、典型的な臨床的特徴が必要であり、遺伝子バリアントのみでは判断できません。また、遺伝子バリアントがなくとも、Dravet症候群を除外すべきではなく14)、遺伝子検査によって治療を遅らせることもすべきではありません。
熱性けいれんや他のてんかんの家族歴は30~50%に認められ、GEFS+を示唆する場合があります。
鑑別すべき疾患
■ 熱性けいれんプラス(FS+)
本疾患も生後早期に熱性けいれんを呈することがありますが、乳児期に反復する遷延性焦点間代(片側間代)発作があればDravet症候群が示唆されます。
■ Lennox-Gastaut症候群
本疾患は、初期の強直発作が顕著であり、遷延性焦点間代(片側間代)発作は生じないことからDravet症候群と区別できます。さらに、Lennox-Gastaut症候群における脳波は、徐波化を示し、顕著な前頭部優位の遅棘徐波(<2.5Hz)と睡眠時突発性速波活動を伴います。
■ ミオクロニー脱力発作を伴うてんかん
本疾患は、Dravet症候群よりも遅く発症する疾患で、熱性けいれんの既往をもつ症例もありますが、遷延性焦点間代(片側間代)発作やその他の焦点起始発作は認めず、ミオクロニー脱力発作が典型的な発作となります。小児では、ミオクロニー非けいれん性てんかん重積状態を起こすこともありますが、けいれん性てんかん重積状態を繰り返すことはまれです。
■ PCDH19群発てんかん
通常、発作群発を認め、遷延性焦点間代(片側間代)発作とは対照的です。一方で、Dravet症候群と同様に発作は主に乳児期に発症し、発熱が誘因となります。PCDH19群発てんかんは主に女性に発症し、男性では無症状となります。また、X連鎖性遺伝形式を認めることが知られています。
■ 早期乳児SCN1A発達性てんかん性脳症
本疾患は、発症が3ヵ月未満と非常に早く、発達遅滞と顕著な運動障害が先行することでDravet症候群と区別されます。早期乳児SCN1A発達性てんかん性脳症は、Na+チャネル阻害剤に反応することが知られています24)。
■ 構造的焦点てんかん
本疾患は、発熱で誘発され、遷延性焦点起始発作で始まることがありますが、焦点間代(片側間代)発作が左右交代性に起こるDravet症候群とは対照的に、発作は同側又は同一肢に認められます。また、ミオクロニー発作や非定型欠神発作が認められることはまれです。MRIで原因病変が明らかになることがあります。
■ ミトコンドリア病
ミトコンドリア病を有する小児においても、生後早期に複数の発作型を示すことがありますが、他の臓器機能障害、乳酸値の上昇、MRIでの特徴的な異常等、ミトコンドリア病の徴候がみられます。
■ 非てんかん性
遷延性の熱性けいれんがある場合、髄膜炎や脳炎等の頭蓋内感染症を除外する必要があります。
引用文献
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