開発の経緯
セレキシパグ(販売名:ウプトラビ®錠)は、日本新薬株式会社が創製した非プロスタノイドのプロスタサイクリン受容体(IP受容体)作動薬です。
IP受容体を作動させる薬剤としては、プロスタサイクリン(PGI2)及びその誘導体が主に注射剤として肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療薬に臨床応用されています。日本新薬株式会社では、経口投与が可能で血中持続時間の長いIP受容体作動薬の創成を目指し、プロドラッグ化することで、生体内でより長時間にわたる活性代謝物の血中濃度の維持を目指したウプトラビ®錠を創出し、PAHを適応症に開発を進めました。
その後、海外においては導出先のActelion Pharmaceuticals社が開発を進め、「最初のmorbidity/mortalityイベントaが発現するまでの期間」を主要評価項目とした、ウプトラビ®錠の第Ⅲ相無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験(GRIPHON試験)を39カ国、1156例のPAH患者を対象に実施しました。その結果、ウプトラビ®群では、プラセボ群と比較してmorbidity/mortalityの発現リスクが低下し、有効性と安全性が確認され、承認されました。この成績から、米国では2015年12月に、また欧州では2016年5月に承認されました。
国内においては、日本人PAH患者を対象とした第Ⅱ相の非対照オープンラベル試験の成績を加えて、2016年1月に医薬品製造販売承認申請を行い、2016年9月に「肺動脈性肺高血圧症」を効能・効果として承認されました。
一方、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の末梢肺動脈病変は、病理学的に特発性PAHの病変と類似しておりPAHの治療に用いられる肺血管拡張薬が有効と考えられています。ウプトラビ®錠はPAHだけでなくCTEPHに対しても有効性が期待でき、CTEPHに対する既存の治療法が困難な患者に対して新たな治療の選択肢になりうると考えられることから、2010年より外科的治療不適応又は外科的治療後に残存・再発したCTEPH患者を対象に国内第Ⅱ相プラセボ対照二重盲検比較試験ならびにその継続試験としてオープンラベル長期投与試験を実施し、有効性と安全性が確認されました。その後、国内第Ⅲ相無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験において、主要評価項目である肺血管抵抗(PVR)の投与20週後におけるベースラインからの変化量についてプラセボに対する優越性が検証され、有効性と安全性が確認されました。これらの成績に基づき、2020年11月に「外科的治療不適応又は外科的治療後に残存・再発した慢性血栓塞栓性肺高血圧症」を効能・効果として承認事項一部変更承認申請を行い、2021年8月に承認されました。
なお、ウプトラビ®錠は「肺動脈性肺高血圧症」の効能・効果で2014年9月[指定番号(26薬)第347号]に、「外科的治療不適応又は外科的治療後に残存・再発した慢性血栓塞栓性肺高血圧症」の効能・効果で2016年6月[指定番号(28薬)第382号]に、それぞれ希少疾病用医薬品に指定されています。
a:morbidity/mortalityイベントの定義は「判定基準」を参照