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デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の病態と
ビルテプソ®の作用機序
DMDの病態とビルテプソ®の作用機序(動画)
DMDの病態と発症機序
DMDの病態
DMDは、ジストロフィンの欠損により、骨格筋の変性・壊死と筋力低下をもたらすX連鎖性遺伝の筋疾患です1)。DMDは慢性・進行性に経過し、5歳頃に運動能力のピークをむかえ、10歳頃に歩行困難となります。進行すると重篤な運動機能障害だけではなく、嚥下障害、排痰困難、消化管障害が引き起こされ、さらに呼吸筋や心筋の障害も加わり、最終的には呼吸不全や心不全により死に至ります。近年、呼吸管理や心不全管理等の医療技術の進歩もあり、平均寿命は延長しています2,3)。
ジストロフィンの役割
ジストロフィン遺伝子は79個のエクソンを有します。スプライシングを経たmRNAは約14 kbのサイズであり、翻訳されたジストロフィンは3,685個のアミノ酸から構成され、その質量は427 kDaです(図1)。
ジストロフィンは細胞質内のアクチンと結合し、細胞膜の糖タンパク質(αジストログリカン:αDG)とジストロフィン-ジストロフィン関連糖タンパク質複合体を形成することで、ラミニンα2を通じて細胞外マトリックスの基底膜と連結しています4,5)(図2)。ジストロフィンはこのように基底膜と筋細胞の細胞骨格を固定して、筋細胞の構造を保持する機能を担っています。ジストロフィン-ジストロフィン関連糖タンパク質複合体の形成に関わる両端の構造[N末端(N-terminal:NT)、C末端(C-terminal:CT)]は筋細胞の構造を保持するためには必須です。一方で、途中の部分(rodドメイン)は基本構造の繰り返しであり、両端の構造が保持されていれば途中の部分は少し短くなっていても機能します6)。
図1 正常ジストロフィン遺伝子及びジストロフィン7)
図2 ジストロフィン-ジストロフィン関連糖タンパク質複合体4)
McGreevy JW, et al.: Dis Model Mech. 2015; 8: 195-213.より一部改変
McGreevy JW, et al.: Dis Model Mech. 2015; 8: 195-213.より一部改変
DMDの発症機序
ジストロフィンが欠損すると筋細胞の構造が壊れ、筋肉は損傷を受けます。線維芽細胞が活性化されて線維化がおこり、組織は瘢痕化して、筋細胞が再生されにくくなります8)。このような筋の壊死及び再生が繰り返されて脂肪化・線維化が進むことで症状は進行していきます。
DMDの60%の症例では、ジストロフィン遺伝子内に単一又は複数エクソンの欠失を認めます。この欠失エクソンの塩基数が3の倍数でない場合、mRNAがアミノ酸へ翻訳される過程で本来のアミノ酸の読み取り枠にずれ(アウト・オブ・フレーム)が生じます(図3)。これにより、エクソン53以降に終止コドンが出現し、ジストロフィンが欠損することとなり、DMDを発症します。
図3 ジストロフィンへの翻訳過程(エクソン45-52を欠失したDMD患者の場合)
ビルテプソ®の作用機序
正常ジストロフィン遺伝子では、エクソン52の最後の1塩基とエクソン53の最初の2塩基とが繋がって1つのコドンを形成しています(図4a)。この場合には途中の読み枠に終止コドンは出現せず、mRNAは最後までアミノ酸に翻訳されます。しかし、エクソン45-52を欠失したジストロフィン遺伝子では、スプライシングによりエクソン44とエクソン53が連結したmRNAが生成します(図4b)。この場合、エクソン53以降の読み枠は1塩基分だけ右にずれ(アウト・オブ・フレーム)、終止コドンが出現します。
ビルトラルセンはジストロフィン遺伝子のエクソン53を標的とするアンチセンス核酸です。ジストロフィンmRNA前駆体のエクソン53の一部に結合し、スプライシングの過程でエクソン53を取り除く(スキップする)ことによってアミノ酸の読み取り枠を回復させます(図4c)。エクソン45-52を欠失したジストロフィン遺伝子にビルトラルセンを適用すると、エクソン44とエクソン54が連結したmRNAが生成し、最後(エクソン79)まで翻訳が完了し(イン・フレーム)(図4c)、この結果、ジストロフィンが産生されます9,10)。
エクソンスキッピングにより発現したジストロフィンは、通常より短いものの両端の構造を保持しているため機能を持つと考えられています。このことにより、疾患の進行抑制や、疾患状態の改善が期待されます11)。
図4 DMD患者のmRNAにおけるアウト・オブ・フレーム変異とエクソン53スキッピングによる
イン・フレーム化の機序(エクソン45-52を欠失したDMD患者の場合)