DMDエリア座談会in関越
デュシェンヌ型筋ジストロフィーの
遺伝学的診断から治療まで
2024年10月 改訂
出席者
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国立病院機構 西新潟中央病院 副院長
遠山 潤先生
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信州大学医学部 遺伝医学教室 教授
古庄 知己先生
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自治医科大学 小児科学講座 助教
溝部 吉高先生
出席者の所属は資材改訂時のものです。
現在の所属・役職とは異なることがありますので、ご了承ください。
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(以下、DMD)は、ジストロフィンの欠損により、骨格筋の変性・壊死と筋力低下をもたらすX連鎖性遺伝の筋疾患です。近年、一部の適応ながら疾患の原因に作用する治療薬が登場し、早期診断治療の重要性が高まっていますが、遺伝性疾患であることから診断の際には適切な対応が必要となります。そこで今回、DMD 診療で活躍される先生方に、「デュシェンヌ型筋ジストロフィーの遺伝学的診断から治療まで」と題して、DMDの診断や遺伝カウンセリング、標準治療、新規治療について議論していただきました。
目次
「警告・禁忌を含む注意事項等情報」等は電子添文をご参照ください。
本日は、「デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の遺伝学的診断から治療まで」をテーマに、信州大学医学部遺伝医学教室の古庄知己先生、国際医療福祉大学病院小児科の溝部吉高先生とともにお話を進めてまいりたいと思います。最初に、DMDの全般的なお話と診断方法につきまして、古庄先生、よろしくお願いいたします。
DMDの全体像とその診断方法
DMDは出生男児3,000人に1人1)が発症する頻度の高い遺伝性疾患です。幼児期に運動発達の遅れが始まり、筋力低下が進行して12歳までに車椅子になるのがこれまでの自然歴で、その後、心筋症や側彎の進行、呼吸器系の合併症などがみられてきます。DMDの本態は、X染色体上に存在するジストロフィン(DMD)遺伝子の変異により、筋細胞裏打ちタンパク質であるジストロフィンが欠損し、筋の壊死・再生という組織学的な異常が生じることにあります。遺伝形式はX連鎖性遺伝で、マネジメントとしては定期検診(小児神経、循環器、整形外科)、ステロイド治療、リハビリテーション、感染予防、バランスの良い食生活があり、病態を改善する治療法の開発、保因者の健康管理も重要となります(表1)。
表1 DMDとは
- デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne Muscular Dystrophy)
- 発症率:出生男児3,000人に1人
- 幼児期、運動発達の遅れ。筋力低下が進行。12歳までに車椅子。18歳以降、心筋症。その後、側彎の進行、呼吸器系合併症
- ジストロフィン(DMD)遺伝子(X染色体上)の変異→筋細胞裏打ちタンパク質ジストロフィンの欠損→筋の壊死・再生
- X連鎖性遺伝
- 定期検診(小児神経、循環器、整形外科)、ステロイド治療、リハビリテーション(PT)、感染予防、バランスの良い食生活、病態を改善する治療法の開発、保因者の健康管理
古庄知己先生ご提供
最近では新生児期や乳幼児期の感染症、運動発達の遅れなどにより血液検査を実施し、高CK血症に気付くことが診断のきっかけとして多く、DMDが疑われたら多くは小児神経の専門医に紹介され、専門的診察、CKの再検、鑑別診断へと進みます。
DMDの確定診断は従来、筋生検により行われていましたが、現在は血液を用いた遺伝学的検査を最初に実施します。DMD遺伝子の変異としては、大部分の患者さんにおいて、ある一定領域のエクソンの欠失や重複がみられますので、MLPA(Multiplex Ligationdependent Probe Amplication)法を用い、欠失・重複部位を診断することが多くなっています。その欠失パターンは軽症型のベッカー型筋ジストロフィー(BMD)あるいは中間型を示すこともあれば、DMDを示す形もあります。そして、DMDの約1/3は点変異や短い塩基の欠失・重複などの微小変異で、多くは早期に終止コドンが出現するとされています。この遺伝子変異の検出方法として、1塩基ごとの変化は直接シークエンスや次世代シークエンスで解読することが可能です。新規治療であるエクソンスキッピング療法を視野に入れると、治療対象となるのは特定の欠失を有する患者さんになりますので、しっかり診断することが重要な時代になってきています。
先生のお話で、DMDが診断されるきっかけとして、新生児期や乳幼児期の血液検査で見つかることが多いということですが、お子さんを紹介する側としてCKが高値の場合、どのような点に気をつけたらよいでしょうか。
新生児の場合は恐らく新生児集中治療室を有する施設で検査されると思いますが、CKが高値を持続した場合には、いろいろな疾患との鑑別が必要となりますので、小児科から小児神経科へ診療が移ると思われます。これに対して乳幼児期に感染症などで偶発的に見つかった場合には、開業医の先生よりも総合病院での入院の形が多いと思いますが、その時に一番大事であるのは深刻になりすぎてドロップアウトしないようにすることで、信頼できる小児神経の専門医にまず紹介することが重要と考えます。
CK値が1,000 IU/Lを超えていた場合には、小児神経の専門医に紹介したほうがよいでしょうか。
そうですね。
溝部先生にお伺いします。最近はDMDを疑った時には遺伝学的検査が主体となりますが、筋生検の適応についてはいかがお考えでしょうか。
現在は遺伝学的検査が保険適用され、2回まで実施できますので、DMDが疑われた場合にはまずMLPA法でエクソンの欠失・重複の有無を確認し、異常がない場合には直接シークエンスに進む流れになると思います。それで診断がつかなかった場合は、小児期には他にもCK値が上昇する筋疾患が様々ありますので、その精査として筋生検も一つの選択肢になると思います。
DMDの遺伝学的診断における注意点
続いて、DMDの診断時に注意するポイントなどにつきまして、古庄先生からお話いただきます。
まず、遺伝学的診断の有用性と留意点をまとめてみますと、有用性の1つ目は診断が確定し納得できること、2つ目は合併症に対する最適な検診や治療へつなげたり、新しい治療へのアクセスなどといった点で、子どもの健康管理にいかせること、そして3つ目は次の子ども、次の世代の可能性が整理でき、家族にいかせる点があります。一方、留意点としては進行性、遺伝性疾患のご家族の受け入れがあると思います(表2)。
表2 遺伝学的診断の有用性と留意点
- 有用性
- 診断が確定し、納得できる
- 仲間の存在(筋ジストロフィー協会)
- 子どもの健康管理にいかせる
- 合併症に対する最適な検診、治療
- 症状、ステロイド開始時期・準備状況の見守り
- より良い治療への期待
- エクソンスキッピング療法
- Remudy登録
- 次の子ども、次の世代の可能性が整理でき、家族にいかせる
- 留意点
- 疾患の受け入れ(進行性、遺伝性)
古庄知己先生ご提供
このような中で、長野県ではDMDの診療状況の変化などに対応するため、当院と県内の筋ジストロフィー診療に携わる医療機関との間で診療ネットワークを構築し、多職種によるチーム医療を展開しています。このチーム医療では定期的に合同カンファレンスを開催してお互いの連携を図ったり、新しい治療に関しての情報共有を行ったりして、その情報をご家族や患者さん本人に伝えることで、安心して治療に取り組んでもらえています(図1)。
図1 信州DMDチーム医療
- 信州大学医学部附属病院
- 信濃医療福祉センター
- 長野県立こども病院
- 稲荷山医療福祉センター
- 国立病院機構
まつもと医療センター - 三才山病院
合同カンファレンスで討議したテーマ
- 多科・多施設の連携
- 診療ガイドライン
- ステロイド早期投与の是非
- DMDの運動制限とリハビリ
- 運動機能評価法
- 呼吸・循環・栄養管理の工夫
- DMD患者を取り巻く福祉・教育的問題
- エクソンスキッピングの臨床試験
- 基礎研究における知見の紹介
- 管理栄養士との連携
古庄知己先生ご提供
また、わが国には筋ジストロフィー患者登録システム(Remudy)があり、患者さんが登録することで最新の臨床試験/治験などの情報にアクセスできるようにもなっています。
一方、遺伝に関しては、発端者のお子さんが出た場合、母親が保因者であるか否かは家族にとって重要となります。2/3程度が保因者になると考えられていますが、母親が保因者の場合、男児の50%が発症、女児の50%が保因者となります。保因者診断はCK値では判断できないため、遺伝科で遺伝カウンセリングを通じて遺伝学的検査まで行うことになります。その有用性としては、病気の成り立ちがわかり納得できることのほか、保因者の一部で心筋症を発症することがあるため、その検診につなげることもできます。留意点は心理面であり、遺伝のことや子どもへの想い、自身の健康面などと向き合うことになります。遺伝科では次の子どもをめぐる相談も遺伝カウンセリングとして対応しています。母親が保因者であると、男児の1/2がDMDを発症するため、次の子全体でみると3/4は発症しませんが、なかには出生前に診断をして妊娠を続けるか判断したいという方もいるかもしれません。また、出産に向けての準備ということで、産科や小児科の先生と協力しながら、生まれた赤ちゃんが男児の場合、どの段階で診断するかという打ち合わせを行ったりもします。できれば妊娠前にじっくり考える機会を持つことが大切で、子どもの診断直後に保因者診断された場合と、子どもの医療が軌道に乗って納得した段階で保因者診断される場合では、想いも変わると考えられます。
さらに、お子さん自身の受け入れも重要な問題で、最近ではインターネットを通じて情報が得られやすくなっていますので、何歳頃に病名を伝えればよいか考慮する必要がありますし、子どもがどのような思いで治療に向き合っているかを聞くことも大事です。
最近ではまた、きょうだいのこともチームで話題となっており、遺伝科ではフォローアップの中で、程良いタイミングでの遺伝カウンセリングを提案しています。DMDは進行性の疾患という面からみると、自分のきょうだいが重い病気を持つことへの負担あるいは身近であるからこその葛藤などもあります。また、遺伝性の疾患という面でみると、特に姉、妹さんがいる場合にはいずれどこかで保因者診断と向き合うことにもなります。発端者であるお子さんへの家族の関わりが、きょうだいのこの病気へのイメージ、価値観にも影響しますので、きょうだいのことにも気を配りながら診ていくことが、この疾患の医療には求められると考えます。
非常に重要な問題が多いのですが、DMDでは特に家族のケアにあたり、いろいろな体制が必要であると思います。古庄先生としてはどのような体制で診るのがよいと思われますか。
長野県のチーム医療は、小児科医、遺伝科医、神経内科医、理学療法士など多職種で構成されていますが、いろいろな人が丁寧に関わることが大事であると思います。特にご家族・患者さん本人と長期間寄り添っていく理学療法士の存在はとても重要であると感じています。
溝部先生はいかがでしょうか。
古庄先生のおっしゃるとおりで、いろいろな人が丁寧に関わることが大切であると思います。私たちのところでも、やはり理学療法士さんに対して、患者さんがこういうことができるとかできなくなったとか、いろいろなことを話していることがあります。長野県で実施されている合同カンファレンスのような形で、診療情報を共有できるシステムがあると、ご家族や患者さん本人も安心して治療に向き合えると思います。
古庄先生にお伺いしたいのですが、最後にお話されたきょうだいのことは大変重要と思います。特に女性の同胞がいる場合は、低年齢でしたら「まだ保因者診断はしない」と言うのは簡単ですが、例えば「いつ頃きょうだいに話したらよいでしょうか」という質問が我々のところによく来ます。この点はいかがでしょうか。
基本は、発端者の男児にもきょうだいにも病名を隠さないことに尽きると思います。少なくとも家族に関わる病気であるということは分かっておいてもらい、例えば高校生の時など、精神的にしっかりしてきたら遺伝カウンセリングを受けていただくのがよいと思います。実際、保因者診断は自己選択ですので、結婚を考える時になるのかもしれませんが、後で「知らされていたら良かった」ということにならないように、高校生くらいの時にある程度概要を知っておいてもらったほうがよいと思います。
病名を隠さずに伝えるのが大事であるということでしょうか。
そのように思います。その前に母親の保因者診断をなるべくやっておくことが家族の整理にも役立ちますので、我々は発端者のお子さんが出た場合は母親の保因者診断を行うことにしています。
- デュシェンヌ(Duchenne)型筋ジストロフィー 概要 - 小児慢性特定疾病情報センター(shouman.jp)ホームページ
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