DMDエリア座談会in関越

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの
遺伝学的診断から治療まで

2022年7月13日 Web開催

出席者

  • 遠山 潤 先生

    国立病院機構 西新潟中央病院 副院長

    遠山 潤先生

  • 古庄 知己 先生

    信州大学医学部 遺伝医学教室 教授

    古庄 知己先生

  • 溝部 吉高 先生

    国際医療福祉大学病院 小児科 病院助教

    溝部 吉高先生

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(以下、DMD)は、ジストロフィンの欠損により、骨格筋の変性・壊死と筋力低下をもたらすX連鎖性遺伝の筋疾患です。近年、一部の適応ながら疾患の原因に作用する治療薬が登場し、早期診断治療の重要性が高まっていますが、遺伝性疾患であることから診断の際には適切な対応が必要となります。そこで今回、DMD 診療で活躍される先生方に、「デュシェンヌ型筋ジストロフィーの遺伝学的診断から治療まで」と題して、DMDの診断や遺伝カウンセリング、標準治療、新規治療について議論していただきました。

目次

DMDにおける標準治療

遠山 潤先生

次に、治療の話に移りたいと思います。まず、DMDの標準治療につきまして、溝部先生からお話いただきます。

DMDは先ほど古庄先生のお話にもありましたように、筋力低下の進行に始まり、その後、側彎や関節拘縮、呼吸機能低下、心不全など、各種の合併症が同時に進行してきます。このため、対応も多岐にわたり、これまで様々な治療が試みられてきています。

その標準治療に関して、ステロイド治療はコクラン・レビューで2年間筋力低下を抑制できることが示されており、その治療目的は主に進行を遅らせることにあります。ただし、肥満や骨密度の低下、免疫抑制といったステロイド剤共通の副作用が問題点としてあります。また、理学療法では拘縮予防のためのリハビリ・装具装着と歩行機能低下に対する車椅子の使用などがメインとなり、ほぼ一生涯にわたり治療経過を見ていくことになりますが、病態の進行に伴い選択肢が減ってくるため、それに合わせ治療を行っていくことになります。

溝部 吉高先生

整形外科的な治療としては、骨折予防のための薬物療法のほか、側彎が進行した場合には脊椎後方固定術なども行われますが、健康人に比べ全身麻酔による合併症リスクが高いため、予防的な治療がメインとなってきます。呼吸補助療法に関しては、最近では非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)が普及し、長期にわたり発声が保たれた状態を維持できるようになりましたが、進行に伴い気管切開が必要なこともあります。また、抗心不全療法に関しては、主にβ遮断薬が使用されていますが、その効果には限界があり、20代以降では心筋症が進行し水分制限や運動制限が必要となることもあり、解決しなければならない問題点となっています。

このほか、栄養管理に関して、肥満は心機能や全身の筋力にも大きく影響しますので、体重コントロールが必要となります。また、嚥下障害に対する誤嚥の防止ケア、胃瘻造設などがありますが、特に胃瘻造設後の治療をどうするかなどの問題点があると思います。これらの標準治療はとても重要な部分ですが、やはりDMDには根本的な治療がないというところで、最近エクソンスキッピング治療が出てきました。

遠山 潤先生

これまでDMDの標準治療としてステロイド治療が行われてきましたが、溝部先生は何歳くらいから治療を始められていますか。

ステロイド剤は呼吸筋の維持や側彎の進行抑制によい影響をもたらしますので、比較的早期に、例えば歩行ができたところで導入されている方もいるかもしれませんが、1~2歳の場合には成長に伴う部分への影響も心配されますので、概ね幼稚園から小学校に入った頃から始めることが多いと思います。

溝部 吉高先生
遠山 潤先生

DMD患者さんへの対応として、栄養管理も重要ですが、長野県のチーム医療ではどのような取り組みをされていますでしょうか。

実は同じようなメンバーでプラダー・ウィリ症候群のチームを作っており、そちらには管理栄養士が必ず入ってくれていますので、最近はDMDのチームでも全員入ることにしています。まずは、患者さんがどのような食事をしているのか聞き取りをして、きちんと指示どおりできているのか、できていないなら今後どうしていくかを一緒に考えることを始めています。

古庄 知己先生

DMDにおける新規治療

遠山 潤先生

次に、2020年5月に保険適用となりました新規治療薬ビルトラルセンにつきまして、引き続き溝部先生からお話いただきます。

古庄先生のお話にもありましたが、DMDは欠失変異が多いことが特徴で、特にエクソン45-55領域は欠失変異が集中するホットスポットと呼ばれています。エクソン53スキップ薬のビルトラルセンはこの領域の患者さんをできるだけターゲットにしていくことを目的としています。DMD遺伝子の欠失変異に関しては、DMDとBMDの違いを説明するものとして、変異によるアミノ酸の読み取り枠のずれに基づいた「リーディング・フレーム仮説」が提唱されています。これはエクソンの欠失塩基数が3の倍数ではないアウト・オブ・フレーム変異になれば途中で終止コドンが出現しDMDとなり、3の倍数であった場合にはイン・フレーム化して最後まで翻訳が進み、短縮型のジストロフィンが産生されるBMDになるというもので、約90%のDMD/BMDの表現型の違いを説明できるとされています。この表現型の違いに着目してできあがった治療法がエクソンスキッピング治療です。

溝部 吉高先生

ビルトラルセンは核酸医薬品の一種であるアンチセンス核酸医薬品で、その基本骨格からモルフォリノ核酸と呼ばれています。モルフォリノ核酸は、DNA様の化学構造を有し、電荷中性で、治療域が広く、安全性も高いという特徴がある人工核酸です。エクソンスキッピング治療はこのようなアンチセンス人工核酸を用い、mRNA前駆体から成熟mRNAが形成されるスプライシングの過程で、mRNA前駆体に存在するESE(exonic splicing enhancer)と呼ばれるエクソンを認識させるために必要な配列を阻害することで、特定のエクソンを読み飛ばす治療です。図2はその模式図ですが、例えば、エクソン52欠失変異を持つDMDでは118 (3の倍数+1) 塩基対の欠失があるため、アウト・オブ・フレームになりますが、エクソン53にビルトラルセンが結合し、エクソン53を読み飛ばすことによって、エクソン51と54が直接連結できるようにすると欠失塩基数は3の倍数(118+212=330)となり、イン・フレーム化して最後まで翻訳が継続しジストロフィンができていくと考えられています。

すなわち、この治療は根治療法というよりもDMDをBMDに変える治療法といえます。ビルトラルセンの適応は、エクソン53をスキップすることで欠失塩基数が3の倍数に変化しイン・フレーム化できるDMD患者さんであり(図3)、DMD全体の8~9%の患者さんが対象になると言われています2)

図2 エクソンスキッピング治療の原理~エクソン52欠失の場合~

溝部吉高先生ご提供

図3 ビルトラルセンの治療適応患者

エクソン53をスキップすることで欠失塩基数を3の倍数に変化させ,イン・フレーム化できるDMD患者がビルトラルセンの対象患者となる

Fletcher S, et al.: Mol Ther. 2010より改変

ビルトラルセンは薬物動態の特徴として、静脈注射後1時間で最高血中濃度に達し、速やかに排泄される薬剤で、用法・用量は80mg/㎏の週1回静脈内投与となっています。その臨床効果に関して、国内第Ⅰ/Ⅱ相試験では、エクソン53スキッピング効率(p<0.0001)ならびにジストロフィンの発現量(p=0.0364)の有意な増加が認められています3)。運動機能については海外第Ⅱ相試験の結果から、自然歴群と比較してビルトラルセン治療群では10m歩行/走行時間(速度及び秒)、床からの立ち上がり時間(秒)、6分間歩行距離において有意な差が認められています4)(図4)。

溝部 吉高先生

図4 外国人DMD患者を対象とした海外第Ⅱ相試験:用量設定試験

主要評価項目:ウェスタンブロット法によるジストロフィン発現のベースラインからの変化
用量(症例数) ジストロフィン発現(%,正常対照に対する割合)※1 p※2
ベースライン 25週時 変化量(%)
40mg/kg(n=8) 0.3±0.10 5.7±2.37 5.4±2.40 0.0004
80mg/kg(n=8) 0.6±0.82 5.9±4.50 5.3±4.48 0.0123

平均値±標準偏差
ウェスタンブロットに関して、測定値が定量下限である1%未満の場合は参考値とし、集計は参考値を含めて行った。
※1 ミオシン重鎖で標準化した値
※2 対応のあるt検定

副次評価項目:25週時における時間機能検査のベースラインからの変化
目的
歩行可能なDMD患者を対象に、ビルトラルセン40又は80mg/kgを週1回、20又は24週間静脈内投与した際の有効性、安全性、及び薬物動態を確認する。
ビルトラルセンによる筋力、可動性、運動機能に対する効果を自然歴群と比較する。
対象
エクソン53スキッピングにより治療可能なジストロフィン遺伝子の欠失が確認されているDMD男性患者16例(年齢:4歳以上10歳未満)
主要評価項目
ジストロフィンの発現(ウェスタンブロット法)
副次評価項目
ジストロフィンの発現(免疫蛍光染色、質量分析)、エクソン53スキッピング効率(RT-PCR)、運動機能評価(時間機能検査、定量的筋力検査)
解析計画
安全性解析対象集団は本剤を1回以上投与された全ての患者とし、有効性解析対象集団は本剤を1回以上投与され、ベースラインおよびベースライン後に1回以上の有効性評価を実施した患者とした。ベースライン時に上腕二頭筋の筋生検を行い、25週時(24週間投与後の翌週来院時)にもう一方の上腕二頭筋から再度筋生検を行った。正常検体と比較したジストロフィンの相対発現量(ウェスタンブロット法、RT-PCR、質量分析、免疫蛍光染色)について、各用量コホートのベースライン時からの変化は対応のあるt検定、群間比較は対応のないt検定を用いて検定した。床からの立ち上がり時間、4段階段昇り時間および10m歩行/ 走行時間については結果を速度に変換し、時間および速度の結果を記述的に提示した。定量的筋力検査では、各検査について来院ごとに利き手、非利き手および両側の高値で解析した。時間機能検査および定量的筋力検査について、各コホートのベースライン時からの変化は対応のあるt検定、群間比較は対応のないt検定、自然歴群との比較においては反復測定混合モデルを用いて検定した。検定はいずれも両側とし、多重性の調整や多重検定は実施しなかった。
安全性
本試験において有害事象は、93.8%(15/16例)に認められた。主な有害事象(全例で発現率10%以上の事象)は、咳嗽5例(31.3%)、上咽頭炎4例(25.0%)、鼻閉2例(12.5%)、挫傷2例(12.5%)、下痢2例(12.5%)、嘔吐2例(12.5%)、関節痛2例(12.5%)であった。有害事象は全てGrade2以下であり、死亡、重篤な有害事象及び中止に至った有害事象は認められなかった。本試験において副作用は認められなかった。

一方、安全性に関しては、主な副作用(5%以上発現)として、BNP増加、駆出率減少、蕁麻疹、尿中のN-アセチル-β-グルコサミダーゼ(NAG)増加、発熱などが報告されていますが(表3)、長期投与患者さんや4歳未満のお子さん、腎機能障害を有する患者さんにおける安全性プロファイルについては、現在、市販後調査が行われており、副作用の記載は重要と考えます(表4)。

溝部 吉高先生

表3 ビルトラルセンの副作用

5%以上 5%未満
循環器 BNP増加、駆出率減少
消化器 腹痛、下痢
皮膚 蕁麻疹 湿疹、発疹、毛髪変色
腎臓 NAG増加 β2ミクログロブリン増加
その他 発熱、インターロイキン濃度増加 注射部位紅斑、注射部位漏出

ビルテプソ®点滴静注250㎎ 電子添文

表4 ビルトラルセンの重要な不足情報

  • 長期投与患者及び原疾患が進行した患者における安全性プロファイル
  • 4歳未満の患者における安全性プロファイル
  • 腎機能障害を有する患者における安全性プロファイル

ビルテプソ®点滴静注250㎎に係る医薬品リスク管理計画書

遠山 潤先生

溝部先生のビルトラルセン投与経験から、進行した患者さんではどのような感じでしょうか。

呼吸機能に関しては維持できる可能性があると思います。ただ、この薬の機序を考えますと、ある程度筋機能が残っていて、ジストロフィンタンパク質を回復する余地があることが治療を行う上でとても重要な部分であると思っていますので、かなり進行した場合には早い時期から始めた時に比べ、多少効果が落ちる可能性があると思います。

溝部 吉高先生

溝部先生にお伺いしたいのですが、ビルトラルセンは何歳くらいから始めるのがよろしいでしょうか。

古庄 知己先生

恐らく早期であればあるほど良く、効果があり機能が維持できると考えられます。しかしながら、毎週の点滴が必要であり、症状がない中で毎週投与するべきかについては今のところ分かっていません。また、新生児や乳児において毎週投与ルートを確保することは難しいかもしれませんので、現実的には本人やご家族と相談して始めることになると思います。

溝部 吉高先生
遠山 潤先生

古庄先生は遺伝カウンセリングをされる立場ですが、ビルトラルセンが登場する前と後では、例えばDMDと診断した時の話の内容が変わるとか、少し希望が持てるようになったとか、何かありますでしょうか。

やはり大きく変わった印象があります。これまでは、今ある治療を丁寧にやりながら、「新しい開発中の治療にたどり着けるといいね」と話していたのが、一部の方でもそれが実現したということで、まだ該当しない人にとってもすごく励みになっているところがあります。

古庄 知己先生
遠山 潤先生

ありがとうございました。では最後に、お二人の先生からそれぞれコメントをいただきたいと思います。

DMDは遺伝子情報に基づいて治療ができる時代になったことを感じているとともに、それを子どもさんにしっかり届けたいということですね。さらにご家族に対しても意義あることになるようにつなげていくことで、治療部門と遺伝カウンセリング部門が両輪になって取り組んでいくべき疾患であると改めて感じています。

古庄 知己先生

今回、エクソンスキッピング治療が登場し、遺伝学的検査が治療につながってくるというのが大きなところと思っています。遺伝学的な診断から治療に結びつけていく流れを、開業医や市中病院も含めた小児科の先生方、さらには成人医療の先生方も含めて、いろいろな方にぜひ知っていただきたいと思います。

溝部 吉高先生
遠山 潤先生

DMDの遺伝学的診断から最新の治療までをお二人の先生にお話いただきました。この病気は適切に検査されて診断されることが重要ではないかと思います。最初のお話にありましたように、お子さんで持続的にCK値が高い患者さんがいた場合にはDMDと他の筋疾患も疑われますので、小児神経の専門医などに相談し、遺伝カウンセリングは臨床遺伝専門医に相談するのが大切ではないかと思います。今後新たな治療法も開発されてくると思いますので、そういうものを積み重ねていって、患者さんにより良い医療を提供することが大事であると思います。本日はどうもありがとうございました。

電子添文情報を見る

  1. デュシェンヌ(Duchenne)型筋ジストロフィー 概要 - 小児慢性特定疾病情報センター(shouman.jp)ホームページ
  2. Theoretic Applicability of Antisense-Mediated Exon Skipping for DuchenneMuscular Dystrophy Mutations. Hum Mutat. 2009 Mar;30(3):293-299.
  3. 国内第I/II相試験(試験番号NS065/NCNP01-P1/2)
  4. 海外第II相試験(試験番号NS065/NCNP-01-201)

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